社説・コラム

天風録 『福山市のホロコースト記念館』

 英国の国立博物館は入館料がただという。緊縮財政の折も政府は無料を守った。足を運びやすくし、多くの人に見てもらいたいからだと聞く。福山市にも開館以来、無料の施設がある。新館ができて10年になるホロコースト記念館だ▲ナチス・ドイツに迫害されたユダヤ人の歴史を伝える。牧師でもある大塚信(まこと)館長がアンネ・フランクの父オットー氏と出会ったのを機に22年前に開いた。フランク家ゆかりの品や、被害者の遺品、写真500点が並ぶ▲無料なのは「この品々に値段は付けられない」からだ。60カ国以上の施設に手紙を書いたり被害者を訪ねたりして、一つ一つ寄贈を受けた。収容所時代の服、子ども靴、パスポート…。持ち主の悲しみや怒りが胸に迫ってくる▲郊外にもかかわらず、延べ16万人が訪れた。広島市への平和学習の前後に訪れる修学旅行生も多い。一方、大塚館長は継承に危機感も抱く。アンネを知らない若者が最近増えている、と▲今夏、ユダヤ人へのビザ発給で知られる外交官杉原千畝(ちうね)氏のコーナーを追加した。他にも勇気ある行動で命を救った人を紹介している。もっと多くの人に見てほしい記念館だ。いかに生きるかを考えさせられる。

(2017年10月13日朝刊掲載)
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