×

社説・コラム

『書評』 「巻雲」 郷土の本 原爆ドームの保存に尽くす

 岡山県早島町出身の建築家で、原爆ドームの保存に尽くした佐藤重夫(1912~2003年)。「巻雲(けんうん)」は、中国地方で多くの建築物を手掛け、学者としても戦後の町づくりに力を注いだ佐藤の伝記だ。

 終戦後に中央省庁の逓信院を退職し帰郷。岡山市で建築事務所を開く一方、市の復興計画に携わった。その後、広島大教授や呉高専校長を歴任。原爆ドームの2回の保存工事に参加し、工法を提案するなど技術面で後押しした。晩年は「祈りの場として受け継がれるべきだ」とドームの観光地化を憂えたという。

 日記や学会誌に書いた文章など豊富な資料を盛り込む。佐藤が日本民俗建築学会の会長時代に事務局長を務めた元法政大教授の古川修文さん(76)=東京都=が編集した。「先生の純粋な人柄に引かれた。広島や岡山での歴史的な功績を後世に残したかった」と話す。

 非売品で、広島県立図書館(広島市中区)や広島市立中央図書館(同)などに寄贈されている。

(2017年12月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ