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遺品 無言の証人

焼け跡に立った復興の旗

  ≪無言の証人・復興の願い≫一大ブームを巻き起こしたアニメ映画「この世界の片隅に」。広島・呉を舞台に、戦争の時代を生き抜く「すず」と家族を描いた。こうの史代さんの漫画を原作に、片渕須直監督が全力を注いだ名作のエンディング近くに、熱心なファンが口コミで話題にするシーンがある。

 原爆で壊滅した広島の街で、すずが夫の周作と再会する。廃墟に立つ旗に「復興」という2文字が…。実は原爆資料館の収蔵資料がモデルになった。当時の暮らしや風景を再現する考証作業で緻密を極めた監督が取り入れたと聞く。

 収蔵庫にある実物の旗を見た。縦73㌢、横43㌢の布の2文字が今なお力強い。資料館によれば爆心地から900㍍、現在の広島市中区榎町で被爆した小原友次郎さん(当時61歳)が焼け跡の炭で、残ったシャツの布地にしたためたという。原爆投下翌日、自宅跡に旗は立つ。

 小原さんは被爆後1週間ほどで寝込むようになり、9月1日に亡くなる。1976年に寄贈された旗の色あせない文字から、街の再生を願いつつ世を去った一市民の思いが伝わる。

(2018年1月3日朝刊掲載)

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