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社説・コラム

社説 一年を振り返って 核なき世界への弾みに

 「核」を巡る出来事がクローズアップされた一年だった。

 最大のニュースは国連における核兵器禁止条約の採択と、その実現に尽くした非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のノーベル平和賞受賞だろう。

 核兵器を「絶対悪」と位置付け、非合法化する初の国際規範である。使用はもちろん、開発や製造、保有などを一切認めない。さらには核兵器の使用をちらつかせる脅しまで禁じ、踏み込んだ内容となっている。

 ICANは、核兵器がいかに非人道的であるかという原点に焦点を絞り、広島、長崎の被爆者団体などの声を条約制定への力としてきた。長年にわたる被爆者の不屈の訴えが、国際世論を突き動かしたといえる。

 平和賞の受賞が、条約を後押しし、核兵器廃絶を目指す国際機運を高めるための大きな節目になったのは間違いない。

 条約の発効には50カ国の批准が必要で、来年にもクリアする見通しという。だが、核保有国は「現実の厳しい安保環境を直視していない」「北朝鮮の核の脅威に対して役に立たない」などと拒絶する。核の傘に依存する国も反発し、日本政府も条約に署名しないと明言している。

 確かに、核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮の脅威は増している。国際社会の制止もお構いなしに強行した6回目の核実験や弾道ミサイルの発射を繰り返す挑発に、日本社会が振り回され続けた一年でもあった。

 中国地方でも6月以降、広島市など各地でミサイルの着弾を想定した避難訓練が繰り返された。地上配備型のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」を導入する候補地として、萩市の陸上自衛隊演習場が浮上している。

 火薬庫と化す朝鮮半島をにらみ、8月に艦載機移転が始まった米軍岩国基地の軍事的、地理的拠点性は格段に高まる。完了すれば、極東最大級の空軍基地となり、攻撃目標にされないかとの不安も膨らむ。

 今年1月に就任したトランプ米大統領は「圧力」一辺倒の姿勢を取り続けている。だが、いまだに解決の糸口さえ見えず、何が起こるか分からない危機的な状況が続いている。

 見逃せないのは、高まる脅威に対し、米国だけでなく、日本や韓国でも「核には核で対抗するしかない」との核武装論が声高に叫ばれるようになっていることだ。核による脅しがもたらす「平和」は長続きしない。

 核抑止論から脱しない限り、核廃絶はあり得ない。核兵器が使われるリスクは残り続け、人類に破滅的な影響をもたらす恐れが消えない。北朝鮮の暴発を国際社会の連携で防ぎつつ、核開発をやめるよう粘り強く説得するしかあるまい。

 ICANとともに活動する広島出身の被爆者、サーロー節子さんの平和賞授賞式での演説を思い起こしたい。「核兵器の開発は、国家が偉大さの高みに上ることを意味しません。むしろ、この上なく暗い邪悪の深みに転落することを意味するのです。(略)必要悪ではありません。絶対悪なのです」

 核抑止力を信じるか否か―。私たち市民の答えは、おのずと明らかだろう。核なき世界の実現に向け、今年の成果を弾みとしなければならない。

(2017年12月31日朝刊掲載)

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