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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 各地からの報告 <2> 厚木㊤

二つの「ねぐら」懸念

 ジェット戦闘機のごう音が、子どもたちの歓声をかき消した。米軍厚木基地(神奈川県大和、綾瀬市)南側のフェンスから県道を隔てた場所にある公園。機体は、同基地の米空母艦載機と識別できるほど低い高度で頭上を飛び去った。小さな子どもを連れていた母親が、慌ててわが子の両耳をふさいだ。

「全然変わらぬ」

 昨年12月上旬。岩国基地(岩国市)への艦載機移転が本格化して1週間後、厚木基地周辺を訪ねた。今年5月ごろまでに61機を段階的に移す計画は6割ほど進んだが、主力のFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊(24機程度)が残る。「騒音は全然変わらない」。基地から約100メートル離れたアパートに住む石郷岡忠男さん(73)=綾瀬市=はこぼした。

 周囲を車で走ると、基地が人口密集地にぽっかりと広がっていることを実感する。在日米軍再編の柱の一つである艦載機移転は、周辺の約290万人に影響する騒音対策も目的だった。

 「今後、静かになるという安直な見通しは立てられない」。12月9日、大和市であった第5次厚木基地爆音訴訟の原告団総会。参加者から疑念の声が相次いだ。副団長の石郷岡さんもマイクを握り「移転が騒音解消の特効薬になるか。そうは思えない」と訴えた。

 厚木基地は米軍と海上自衛隊が共同使用する。米軍機と自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めや損害賠償を国に求める第5次訴訟は昨年8月、横浜地裁に起こされた。原告団長で大和市議の大波修二さん(71)は言い切る。「今回は厚木、岩国両方が好き勝手に使われることを阻止する闘いでもある」

 艦載機に二つの「ねぐら」ができる―。艦載機を鳥に例え、岩国移転後も厚木に頻繁に飛来する、と地元住民は懸念を強める。懸念の通り、艦載機が両基地を拠点化することは現実味を帯び始めた。

 艦載機移転が始まった昨年8月、在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)は厚木を今後も折に触れて利用すると公表。その後、着々と実行している。

 9月、厚木であった陸上空母離着陸訓練(FCLP)に、岩国へ移ったばかりのE2D早期警戒機が舞い戻った。11月には、岩国所属の複数の海兵隊機が、滑走路に車輪が接地した直後に離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を厚木で行った。いずれも激しい騒音を伴う訓練だ。

返還の計画なし

 一方で、周辺自治体に騒音減少への期待も高まっている。12月11日、綾瀬市議会一般質問。古塩政由市長は「艦載機の移転が完了すれば騒音は大幅に軽減されると考えている」と述べ、移転の進展を歓迎した。

 ただ具体的にどれだけ軽減されるか、米軍や日本政府から市側に説明はないという。米軍人や軍属たち計約3800人も岩国へ移るが、住宅跡地など基地の一部を返還する計画もない。

 NPO法人ピースデポ(横浜市)の梅林宏道特別顧問(80)は指摘する。「米軍機の事故が相次いでいる。事故を防ぐため、岩国、厚木を使い、さらに訓練時間を増やそうという発想も米軍に出てくるはずだ」。艦載機が岩国に移っても「厚木の空」が米軍の都合に振り回される状況に変わりはない、と断じた。(久保田剛)

厚木基地爆音訴訟
 神奈川県大和、綾瀬市にまたがり、米軍と海上自衛隊が共同使用している厚木基地(総面積約507万平方メートル)の周辺住民が、国を相手に夜間・早朝の米軍機の飛行差し止めや損害賠償などを求めた訴訟。1976年以降に順次起こされ、第1~4次訴訟は、いずれも国に過去の騒音分の賠償などを命じたが、飛行差し止めを退ける判決が確定した。2017年8月、横浜地裁に提訴した第5次訴訟の原告数は過去4度を超える8015人(17年12月1日現在)。今後も増える見通しで、原告団は1万人規模を目指している。

(2018年1月4日朝刊掲載)

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