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社説・コラム

『記者縦横』 福島の苦悩に胸詰まる

■経済部 井上龍太郎

 実情をあらためて知り、胸が詰まった。今月、廃炉の作業が続く福島県の東京電力福島第1原発と、周辺の市町を訪れた。古里再生に向けた福島の歩みは力強いものがあった。ただ、住民が向き合ってきた我慢や葛藤は、私の想像を超えていた。

 原発が立地する大熊町と双葉町で昨秋、国の中間貯蔵施設が本格稼働した。除染で出た汚染土や廃棄物の多くは事故後、県内の各所に仮置きされたままだが、その保管を担う施設だ。

 約1600ヘクタールの用地の確保は地権者との交渉が続いており、道半ば。既に住民が去った一帯では、数多くの民家が目に付いた。小学校や墓地もあった。場所によっては取り壊しを伴うという。「古里を捨て、一家の歴史をこの土地から切り離すということ。住民は悩みに悩んで引き受けている」。環境省の担当者は明かした。林の向こうに、原発3号機が見えた。

 同県の避難者はピーク時の2012年5月に約16万5千人。今は3分の1に減った一方、避難先での定住を決めた人も少なくない。避難指示が解除された自治体は、解除の時期により住民の戻り具合が大きく異なる。開沼博・立命館大准教授は「数%しか戻らず、未来を描けないまちもある」と話す。新たな生活を築き、帰郷を諦めなければならない現実がある。

 廃炉には30~40年かかるとされる。復興もまた長期の取り組みになるだろう。再生の足元に目を向け続けよう。そう心に刻んだ。

(2018年2月16日朝刊掲載)

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