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社説・コラム

『記者縦横』 「核」を学ぶ若者に感銘

■東京支社 田中美千子

 「核兵器は脅しにも使われるべきでないと思う」。河野太郎外相がそう述べたのは昨年8月の就任会見のこと。核使用の非人道性を踏まえた発言だった。しかし、最近は核抑止力をはっきりと肯定している。

 トランプ米政権が核兵器の役割を広げる内容の核戦略の指針「核体制の見直し(NPR)」を公表すると、河野外相は即、核抑止力が強化されるとの観点から「高く評価する」との談話を出した。北朝鮮情勢を踏まえた対応だろうが、核兵器廃絶をうたいながら核抑止依存をむき出しにする政府の姿にがっくりきた。

 そんな時、民間団体が東京・渋谷で開いた催しを取材した。非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員を招き、核問題について聞いてみよう―との趣向で、若者たち約60人が集まった。

 やりとりは白熱し、3時間にも及んだ。ある参加者が「北朝鮮情勢は心配だけど、米国の『核の傘』がないと本当に危ないの?」と率直な思いをぶつけると、川崎氏はこう答えた。「核には核でやり返すぞ、という手法で安定が保ち続けられるか。先の事を考えないと危険だ」

 催しを企画、進行したのは、20代の若者たちだ。会場では被爆者との交流会も開いた。「核を巡る状況が危機的だからこそ、被爆者の声に触れたり、核問題の基礎を学んだりする場をつくっていきたい」と言う。核抑止の是非を真剣に考える彼らの姿を見習いたい。

(2018年3月9日朝刊掲載)

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