社説・コラム

社説 米朝首脳会談へ 非核化の原点 忘れるな

 あまりの急展開に驚いた人も多いのではないか。トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と5月までに首脳会談する意向を示した。両国トップの会談が実現すれば、史上初めてのことだ。

 つい最近まで核兵器をちらつかせて脅し合い、「老いぼれ」「ロケットマン」とののしり合っていた2人である。本当に会談が実現するのか楽観視はできない。それでも、力によらず対話で緊張を和らげようとする姿勢は評価したい。朝鮮半島情勢は転換点を迎えたと言えよう。

 金氏の側から早期会談を提案したという。核・ミサイル実験の凍結も約束したというから、にわかには信じ難い。金氏はかつて、米側から対話の用意があると伝えられても態度を軟化させることはなかった。逆にミサイル発射実験など、挑発を繰り返してきた。

 国際的な経済制裁で困窮して背に腹は代えられなくなっているのか。米国の軍事行動を何とか避けたいとの思惑もあるのだろう。一方のトランプ氏には、苦戦が予想される秋の中間選挙に向け、何らかの実績をつくりたいのかもしれない。

 今のところ、北朝鮮は米韓合同軍事演習にも理解を示しているそうだ。これまでの強硬姿勢からすれば大きな譲歩である。

 だが真意を慎重に見極める必要がある。その上で朝鮮半島の非核化実現に向けて対話を進め、行動を伴わせるよう迫ることが不可欠である。

 非核化を巡る合意は、北朝鮮によって幾度もほごにされてきた歴史があるからだ。1994年の米朝枠組み合意や、2005年の6カ国協議共同声明、核開発を一時停止するという12年の米朝合意…。過去の非核化交渉が、北朝鮮の核開発の時間稼ぎに利用されたとの見方は今も国際社会では根強い。

 今回、トランプ氏に金氏の意向を伝えた韓国高官が「過去の過ちは繰り返さない」と力を込めたのもそのためだろう。韓国は日米と共に朝鮮半島の完全な非核化に向け、「断固とした決意を維持し、北朝鮮の行動が具体的な言葉で示されるまで圧力をかけ続ける」とも強調する。

 だが、非核化を完全に実現するためには、米朝が話し合いで合意するだけでは不十分だ。検証を可能にする国際的な仕組みづくりや、実効性をどう担保するかなど、乗り越えるべきハードルは数多い。

 北朝鮮の核戦力は既に米本土への核攻撃能力を得る一歩手前まで来ているとされる。その力を手に金氏は、米国に譲歩を迫ってくるに違いない。韓国特使団との会談でも、非核化の前提として、軍事的脅威の解消や金氏体制の保証を挙げていた。

 米朝対話の動きは、日韓だけでなく中国やロシアも評価している。だが大切なのは北朝鮮の核放棄だけでなく、朝鮮半島ひいては北東アジア地域の非核化である。対話はその第一歩だ。核軍拡を続ける米国やその「核の傘」の下にいる日韓など同盟国にもまた、北東アジアから核の脅威をなくす努力が求められることを忘れてはなるまい。

 安倍晋三首相は4月に訪米しトランプ氏と会うという。拉致問題の早期解決に向けた協力を要請するだけではなく、被爆国として核に頼らない安全保障策こそ提案すべきではないか。

(2018年3月10日朝刊掲載)
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