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社説・コラム

天風録 『春よ来い』

 満開の桜の下で家族や同僚らと弁当を広げる姿をあちこちで目にする。広島城や平和記念公園もちょうど見頃に。連日の初夏を思わす陽気が、後押ししているようだ▲長い冬が過ぎて春が来たのは列島だけではない。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、中国を電撃訪問して習近平国家主席の歓待を受けた。夫人を伴った両国のトップが笑顔を浮かべる映像からは関係が冷え切っていたことまで忘れてしまいそうだ▲ともに戦った朝鮮戦争以来、「血盟」と呼ばれる固い絆で結ばれているはずだった。ところが、金氏が核やミサイル開発を強行して関係は冷却。習氏が北朝鮮より先に南隣の「敵国」を訪れると、金氏は平壌に来た習氏の使いに会わない。かたくなな2人が今なぜ「復縁」なのか▲経済制裁という寒風の中、トランプ米大統領との会談を控えた金氏が頼れるのは、中国しかなかったのだろう。「北朝鮮カード」を再び手に入れた習氏にとっても、米国けん制には、おあつらえ向きだったに違いない▲核兵器もミサイルもない朝鮮半島―。そんな日が訪れてこそ、本当の春到来だと喜べる。そうならない限りは、北東アジアに平和が咲き誇ることは望めまい。

(2018年3月30日朝刊掲載)

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