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恩師の被爆体験 語り継ぐ 広島出身の菅さん

五日市中時代担任 瀬越さんの「伝承者」 市研修で再会

 広島市出身の被爆2世で会社員の菅昭彦さん(58)=山口市=が4月から、広島市が養成する被爆体験伝承者として活動を始めた。語るのは母校五日市中(佐伯区)の担任だった瀬越睦彦さん(84)=同区=のストーリー。「恩師の1人の人間としての生きざまを語り継ぎたい」と意気込む。(永山啓一)

 「朝ご飯に手を伸ばそうとしたその時。ピカッー。お母さんの顔が真っ白。まさにろう人形のようだった」。21日に原爆資料館(中区)であった講話会。菅さんは約20人を前にあの瞬間を語った。

 疎開先から一時帰宅中だった11歳の時、爆心地から2キロ離れた現在の西区西観音町の自宅で被爆した瀬越さん。菅さんは、疎開生活から被爆後の様子までを臨場感たっぷりに表現した。

 伝承者になるきっかけは2011年、赴任中の仙台市で遭った東日本大震災だった。津波で家屋が流された被災地。「原爆が落ちた後みたいだ」。両親がほとんど語らなかった被爆後の広島の街を想像した。

 15年に広島市に戻り、地域のためにできることを考えていた時、被爆体験伝承者のニュースを見て思い立った。「これだ」

 伝承者の研修初日、講師として被爆体験を話したのが瀬越さんだった。40年ぶりの再会だったが、すぐに五日市中の思い出がよみがえった。「瀬越先生の体験を引き継ぐことは運命だ」。それから3年、菅さんは月1回ペースで瀬越さんから戦中戦後の生活を聞き、一緒に被爆当時の自宅跡や避難経路を歩いて講話の原稿を練り上げた。

 講話を終えた菅さんは「瀬越先生は同級生みんなが覚えている厳しくて有名な先生。同級生に声を掛けると、たくさん聞きに来てくれた」と手応えを話す。目の前で聞いた瀬越さんは「引き合わせてくれたのは菅君の人徳のおかげ。しっかり戦争や原爆の恐ろしさを伝えてほしい」と目を細めた。

(2018年4月30日朝刊掲載)

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