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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 ドイツ・イタリアから <3> 頭上のヘリ

騒音減 住民要望に限界

駐屯地への賛否で対立も

 ドイツ・ラムシュタイン米空軍基地から東に220キロ。同国南部のアンスバハ市へ向かった。アンスバハ郡の郡庁がある人口約4万2千人の古都。アンスバハ米陸軍駐屯地の施設が、同市を中心に点在している。

深夜まで眠れず

 「米軍のヘリコプターが昼夜ひっきりなしに家の上を飛んでいる」。駐屯地の西約1キロにある住宅街。ケアスティン・マッハさん(48)が騒音の悩みをまくし立てた。基地の閉鎖を求める住民団体のメンバーだ。

 自宅にいる時の飛行状況を克明に記録していた。訪問した2日前の4月17日のメモは、午前9時台から始まっていた。「午後10時7分、離着陸訓練。同10分、旋回飛行。同13分、離着陸訓練」…。夜も数分置きの頻度でヘリは飛び、記録は午後11時半まで続いていた。マッハさんは13歳と10歳の娘を持つ母親だ。「私もこの子らも深夜まで眠れない」。傍らの2人の娘を見やった。

守られない約束

 市一帯に米陸軍の駐留が本格化したのは1970年代。住民団体によると、米側と市は、人が住む地域の上空を「極力飛ばず、夜間は飛ばない」との約束を交わしていた。その後、ドイツ各地の米軍基地の再編、撤退が進んだ影響で、アンスバハ駐屯地に攻撃・輸送ヘリが集中した。現在の所属機数は約140機。この10年で倍以上になった。

 2007年に発足した住民団体の名前は「エッツ・ラングツ」。地元の古い方言で「もうたくさんだ」との意味。「騒音に我慢できず、引っ越した人もいる」と、メンバーで市議のボリスアンドレ・マイヤーさん(36)。「約束は今、まるで守られない。市や州を通じて改善を求めても変わらない」と憤った。

 ドイツには、米軍基地のある地域ごとに、基地と地元自治体の代表たちでつくる「騒音軽減委員会」がある。市に取材を申し込むと、メールで回答があった。「繰り返し改善を求めているが、軍の運用に市は影響力を持たない」

 近隣住民が抗議活動をしていると聞き、駐屯地のヘリ飛行場前を訪ねた。月に1度、夕方に実施しているという。この日は住民12人が、帰宅する米軍関係者に向けて基地撤退を訴える横断幕を掲げていた。

 その時、通り掛かった車が住民たちの前でスピードを落とした。運転席から中年の女性が強い口調で言葉を浴びせた。「仕事がなくなってもいいなら、抗議を続ければいい」

 この地域も米軍との経済的な結び付きは強い。近年の騒音悪化で、駐屯地への賛否を巡り、住民の対立が深まっていた。「抗議活動を嫌っているのは米兵より駐屯地で働いているドイツ人」。横断幕を掲げていた住民の1人がつぶやいた。

 米軍岩国基地(岩国市)では在日米軍再編に伴う空母艦載機の移転が完了し、所属機は約120機へと倍増した。増強の経緯はアンスバハ駐屯地と重なる。マイヤーさんは岩国の状況を聞きたがった。「米軍や政府から押し付けられる負担に、地域が何とかしようとしても限界がある。岩国も一緒じゃないか」(明知隼二)

(2018年5月22日朝刊掲載)

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