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イワクニ 地域と米軍基地 平和都市の周りで <1> ステルスの拠点

 軍備を増強する中国や北朝鮮情勢をにらみ、日本政府は、日米同盟の強化を推し進める。自衛隊は新たな任務や装備を拡充し、米軍との連携を強める。その波は中国地方に押し寄せ、平和都市広島の周りでも軍事強化が目立ち始めた。「深化」する日米同盟の姿を追う。

アジア戦略 新鋭機集積

「同盟の象徴」 国内最多

 5月中旬。青森県の三沢基地に、丸みを帯びた胴体の戦闘機が舞い降りた。米軍岩国基地(岩国市)の海兵隊のF35Bだ。1月、航空自衛隊に初めて配備されたF35A1機との初の共同訓練のためだった。米ロッキード・マーチン社製の日米の最新鋭ステルス戦闘機が、三沢で翼を並べた。

 A型は空軍用。B型は海兵隊仕様で、短距離で離陸し、垂直に着陸できる能力を持つ。タイプは違うもののF35同士が訓練した最大の目的は、相互運用性の向上だった。「日米同盟の抑止力、対処力を強化する取り組みだ」。4月、共同訓練の実施を発表した小野寺五典防衛相は力を込めた。

「今後の基準」

 空戦の在り方を変える「ゲームチェンジャー」―。F35を、専門家はそう評する。

 レーダーに映りにくい高いステルス性能だけが理由ではない。複数の攻撃目標を捕捉し続ける最先端のレーダーやセンサーを備え、他機体やイージス艦などと情報を共有する。「現代の航空戦は、いかに敵に見つからず先制攻撃するかが重要。F35は今後の基準になる」。航空評論家の青木謙知さん(63)は指摘する。

 ただ、コストは膨大だ。1機当たり140億円超。空自は本年度中に10機態勢にし、最終的に計42機を購入する計画でいる。

 それでも、米軍の情報ネットワークに組み込まれる意味は大きいとみる専門家は多い。海自の元1佐で笹川平和財団(東京)上席研究員の小原凡司さん(55)は「米軍とリンクし、リアルタイムでデータを共有できれば、より広域に周辺国の動きを察知できる」と強調する。

 日米同盟強化の象徴であるF35の導入。敵基地攻撃能力が高く、米軍との一体運用も可能な機種はしかし、日本の専守防衛の原則を揺るがしかねない存在とも言える。そして今、米軍のF35の日本最大の拠点は、広島から約30キロ離れた岩国基地だ。

 米軍は計2400機以上を購入予定で、世界的な運用を見込む。米国本土以外で初めて配備したのが岩国基地だった。

 アジア太平洋地域を重視する戦略の一環で、2017年11月までに同基地の海兵隊が16機を配備。今年1月には、31年までに戦闘機部隊の一部も入れ替えることを明らかにした。米海軍も21年以降、岩国に移転した空母艦載機の1部隊を海軍仕様のF35Cに置き換える予定だ。

北朝鮮けん制

 岩国のF35は既に各地に展開し、存在感を発揮している。3月、長崎県の佐世保基地を母港とする米強襲揚陸艦ワスプの艦載機として西太平洋で初めて運用。昨年8月には日米共同訓練に参加し、北朝鮮をけん制した。

 岩国基地は、艦載機移転で約120機を抱える極東最大級の航空基地へと変貌した。今後、「ゲームチェンジャー」は岩国にさらに集積する。

 移転計画が表面化した後の05年、「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」(当時)を有志と設立した坂本千尋共同代表(65)は問い掛ける。「平和都市をうたう広島のすぐそばにアジア屈指の攻撃拠点ができ、F35によって機能強化が進む。その危うさを、広島でどれだけ本気で議論されているだろうか」(久保田剛)

(2018年6月3日朝刊掲載)

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