連載・特集

[Peaceあすへのバトン] 「ピースボート」スタッフ・米大学院生 畠山澄子さん

被爆証言 海外で支える

 英国の大学進学を控えていた2008年、「世界一周の船旅」という言葉に引かれ、非政府組織(NGO)ピースボートのボランティア通訳に応募。被爆者に乗船してもらうこの年の「おりづるプロジェクト」に参加した103人と3カ月間、船上生活を共にしながら寄港先での証言活動をサポートしました。

 埼玉県出身で当時19歳。通訳しながら初めて耳を傾けた被爆体験は衝撃でした。終わりなきがんとの闘い、結婚差別―。きのこ雲の写真を見ながら「この雲の下に、この人がいた」と実感が持てるようになっていきました。自分の中で、原爆被害が人ごとから自分のことに変化しました。

 それから毎年、つらい体験を語る被爆者の声を世界に届けたいと、英国や就職先のシンガポール、そして現在、大学院生活を送る米国でプロジェクトに携わっています。

 証言活動のお膳立ても大切です。事前に寄港地の政府機関や民間団体を訪ね歩き、会場提供などで協力してくれる団体を開拓します。ピースボートが国際運営団体として加わるNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))」とも連携します。こうして被爆者が発信した訴えが、核兵器禁止条約の実現とICANのノーベル平和賞受賞につながったと思っています。

 活動の原点は一念発起して茨城県の高校を中退し、経団連の奨学生としてイタリアの国際学校で学んだ経験です。紛争地出身で心の傷を抱える生徒もいました。「戦後」という言葉も、被爆者の「これからも平和が続いてほしい」という訴えも、戦争が続く国から来た生徒には違う意味を持ちます。本当はごく身近に不条理や構造的暴力が存在し、人間が傷つけられているのだと気付いていきました。

 現在、米大学院で科学技術史を専攻し、被爆者の健康調査の歴史などを研究しています。その傍ら人工知能を駆使した兵器の開発に警鐘を鳴らす漫画本も出版しました。技術革新はもろ刃の剣で、核兵器もその一つ。社会はどう向き合っていくべきなのか、追究したい。調査活動のため5月に広島を訪れました。

 海外のNGOの人たちが、外交官たちから頼られるほどの専門知識を持ち、政治的な行動力を駆使して変化をもたらしている姿に印象を受けた、というのもあります。今後の進路は未定ですが、NGOとの関わりは続けます。

 若い私たちは被爆体験を単に「受け継ぐ」だけではなく、被爆者の行動に、こちらも行動で応えたい。「日本国内でも『おりづるプロジェクト』は必要では」という問題意識から、インターネット募金で200万円を集め、日本国内に被爆者を派遣する試みも始めます。第1弾は7月6日、岐阜県内の小学校です。

 被爆者が肉声を直接届けることができなくなる日は、いつか訪れます。今こそ行動し、核兵器廃絶を願う被爆者の思いを未来につないでいきます。(文・金崎由美、写真・藤井康正)

はたけやま・すみこ
 英ケンブリッジ大卒。アジア欧州財団(シンガポール)を経て現在、米ペンシルベニア大大学院博士課程に在籍。昨年3月、核兵器禁止条約の交渉会議で、日本被団協の藤森俊希事務局次長による冒頭演説を同時通訳。今年1月、共著「マンガ入門 殺人ロボットがやってくる!? 軍事ドローンからロボット兵器まで」(合同出版)を出版。フィラデルフィア在住。

(2018年6月12日朝刊掲載)
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