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連載・特集

[イワクニ 地域と米軍基地] 国と地域と基地の関係 今後どうあるべきか

 在日米軍再編に伴う空母艦載機の移転が完了した米軍岩国基地(岩国市)。騒音被害は県境を越えて拡大し、事故のリスクは増した。米朝関係が対話路線に転じた中、岩国の役割に変化が生じる可能性もある。国と地域、基地の3者の関係は今後どうあるべきか。元防衛官僚で内閣官房副長官補を務めた柳沢協二、広島県知事の湯崎英彦、元米海兵隊太平洋基地(沖縄県)政務外交部次長のロバート・エルドリッジの3氏に聞いた。(城戸収、久保田剛、明知隼二)

元内閣官房副長官補・元防衛研究所長 柳沢協二氏

訓練の見直し求めるべき

 日本は戦後一貫して安全保障の大部分を米国に依存してきた。日本側は抑止力として米軍の駐留を受け入れ、米側はアジア戦略の便利な拠点として在日米軍基地を使ってきた。しかし、初の米朝首脳会談が実現し米朝の緊張が急激に緩和に向かったことで、米軍基地の持つ意味が変わりつつある。

 空母艦載機の移転で機能が強化された岩国基地もそうだ。基地からの出撃を想定していたのは朝鮮半島有事にほかならない。想定が崩れれば、即応基地の役割が薄れてくるだろう。

 米軍全体の傾向として、アフガニスタンやイラクでの対テロ戦争以降、訓練や作戦行動が増えている。中国へのけん制を意識した行動もある。にもかかわらず予算は長らく削減され、現場の負担が増えた。事故が続発していることから分かるように安全面に不安がある。日本国内でも大事故につながりかねないリスクがある。

 日本国内でも訓練が激しくなっているようだ。深刻な事態を防ぐため、日本政府は訓練の見直しを米側に求めるべきだ。しかし、政府は「守ってもらっているから文句は言えない」との姿勢が先立つ。主権国家として改善を求めるべきは求めないといけない。

 日米地位協定もその一例だ。世界の地位協定では、平時は国内法を適用することが標準だ。日本は国内法が原則適用されず、基地の運用や訓練などで米軍の都合が優先される構造だ。仮に米軍を受け入れ続けるなら見直しを求めるべきだ。ただ米国は見直しの機運が他国へ波及するのを恐れる。ハードルが極めて高いのも事実だ。

 日本は自国の安全保障に関し、米軍をどう国内に引き留めるかという戦略しか持たなかった。しかしアジアの安保環境は急変している。何のために米軍基地を受け入れているのかという原点から改めて議論を始める必要がある。

 いざというときには標的になる基地の本質的なリスクを、周辺住民はどれだけ意識できているか。国はそうした点も説明を尽くさねばならない。基地に関する議論を、騒音や事故リスク、交付金などを巡る単純な賛否を超え、日本の安全保障の在り方を正面から議論する契機にしないといけない。

やなぎさわ・きょうじ
 東京大法学部を卒業後、防衛庁(現防衛省)入り。官房長、防衛研究所長などを経て、04~09年に内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)を務めた。11年からNPO法人国際地政学研究所理事長。東京都出身。71歳。

広島県知事 湯崎英彦氏

米側は関係住民に配慮を

 西中国山地の米軍訓練空域での低空飛行訓練は、県民の安全、安心に関わる重大な問題だ。夜間、休日など住民生活に影響が大きい時間帯の飛行が確認されている。日米の合意事項を守っているとは言い難い状況だ。私自身、北広島町や安芸太田町を訪れた際、頻繁に米軍機を見掛ける。

 こうした中で岩国基地に空母艦載機が移転し、県西部を中心に騒音は大幅に増加した。騒音被害は今後も続くと懸念している。

 今月上旬、小野寺五典防衛相と面会し、訓練空域を防衛施設とみなし、空域下の市町と県を対象にした交付金制度を新設するよう要請した。学校などへの防音対策には財源が必要だ。増加する騒音被害に対処するのは自治体ではなく国。それが筋だ。

 交付金を受け取れば低空飛行を認めたと受け取られかねない、という意見があることは承知している。しかし、交付金を受け取ったからといって、訓練や騒音被害を何でも受け入れることはない。県民の不安をあおる訓練はやめてもらうのが当然だ。国に言うべきことは言う。日本の国防上、必要なものまでは否定できない。沖縄の基地負担の軽減も日本全体で考えねばならない問題だ。

 小野寺防衛相には、県の提案をきちんと受け止めていただいた。県は、低空飛行訓練の問題を繰り返し国に訴えてきた。以前に比べ、話を聞いてくれるようになったと感じている。解決に向け、国と地道にコミュニケーションを続けていくしかない。

 地域と基地との関係を考える上で、米側に関係住民を配慮する姿勢がほしい。例えば、米軍ヘリコプターの窓が小学校の運動場に落下する事故でも、事故後も小学校上空を通過したと伝えられた。住民は米軍に誠意を感じず、説明責任を果たしていないと思うだろう。

 米側は日本国民のことを考え、日本の防衛に力を尽くしていると言うだろう。しかし、住民の苦情や訴えを聞き、地域に思いを寄せてくれなくては対立が深まるばかりだ。配慮によって、米軍の活動に対する住民の許容度は変わってくる。

ゆざき・ひでひこ
 東京大法学部を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入り。退職後、ブロードバンド通信会社を設立、副社長を務めた。09年に初当選し、現在3期目。広島市佐伯区出身。52歳。

元米海兵隊太平洋基地政務外交部次長 ロバート・エルドリッジ氏

透明性と国の説明が必要

 地域と米軍基地が良好な関係を持続させるためには基地は透明性を高め、日本政府が説明責任を果たすことが重要だ。沖縄の海兵隊基地で日本政府や自治体、住民に向き合った経験から断言できる。

 在日米軍再編に伴う岩国基地への艦載機移転は、岩国に軍事機能を集約、強化した面で成果はある。だが基地と地域との関わりの面で成功だったか。移転の賛否を問うた岩国市の住民投票(2006年)で民意は「ノー」を示した。その民意も踏まえた前市長が移転反対を掲げたのに対し、国は補助金を凍結した。「アメとムチ」を使い分け、地域にしこりを残した。

 国は最後まで前市長に理解を得る努力を尽くしたか。説明責任の重要さを分かっていない。

 普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沖への移設計画が時間を要しているのも同様の構図だ。辺野古が本当にベストか、政府は十分に説明しているか。反対派が機動隊に排除され、県外移設を訴える沖縄県と政府は双方を裁判で訴えた。警察力や法的措置に依存する政策は簡単に進まない。

 地域と米軍の相互理解を進めるには、米軍と自衛隊による基地の共同使用を広げることが方法の一つと考えている。基地管理は自衛隊が担う。そうすれば基地の内外で言葉の壁が消える。自衛隊が持つ情報も増える。

 日米地位協定の運用を担い、さまざまな決定をする日米合同委員会の閉鎖性も問題だ。原則、関係自治体を協議に出席させるべきだ。全てを公開できなくても、住民生活に影響する基地運営について地域は知る権利がある。

 普天間飛行場では多くの見学者を受け入れた。部隊運用の秘密は当然守るが、誰もが抱く疑問には答えようと努めた。透明性がなければ、理解も支持もされない。米軍や防衛省の担当者は変わるが、住民はずっと基地のそばで生きる。普段から疑問に丁寧に応え、可能な限り早く対応する。そうすれば問題発生時の摩擦も軽減される。米軍は「信頼の貯金」を日々ためておくことが大切だ。

 99年に神戸大大学院で博士号(政治学)を取得。大阪大准教授を経て、09~15年、米海兵隊太平洋基地政務外交部次長を務めた。現在はシンクタンクを主宰する。主著に「オキナワ論」「トモダチ作戦」。米国ニュージャージー州出身。50歳。

在日米軍再編

 冷戦終結や2001年の米中枢同時テロを受けた世界規模の米軍合理化の一環。米軍の抑止力維持とともに、沖縄などの基地負担軽減を図るのを目的に日米両政府が06年に合意した。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をはじめ、在沖縄米海兵隊の一部のグアム移転、厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機移転などが盛り込まれている。

在日米軍の低空飛行訓練

 敵地でレーダーに捕捉されないよう低高度で山間地などを飛ぶ訓練。日米地位協定に基づき、米軍は航空法上の規制などの適用を除外されている。各地で反対運動が起き、日本政府と米軍は1999年、「訓練は日本の航空法と同じ高度規制(人口密集地300メートル、その他150メートル)を適用」「学校や病院などの建物に妥当な考慮を払う」などの日米合意を結んだ。中国地方では90年代に目立ち始め、広島、島根両県の西中国山地で目撃が相次いでいる。

(2018年6月27日朝刊掲載)

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