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[ヒロシマは問う どうみる米朝首脳会談] 広島修道大国際政治学科教授 船津靖氏

首脳協議で合意具体化を

 米朝首脳会談の合意文書の内容だけ見れば、「大山鳴動してネズミ一匹」で曖昧な印象だ。一義的には、最高指導者同士が核問題を協議し、緊張が緩和したのが一番大きい。朝鮮半島での本格的な軍事衝突の可能性がほぼなくなったことは、日本にとっても極めて望ましい。

 ただ、この2人が何を目標にしているか考えなければならない。果たして、核なき平和な世界だろうか。違うだろう。権力の維持だ。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長にとっては独裁政権を維持するために、最も敵対的な国家である米国の体制保証が欲しい。これまでの核と経済成長の並進路線から、金氏は経済にかじを切った。制裁も効いた。「非核化」を掲げた方が有利と判断したのではないか。

 一方のトランプ米大統領は再選を望んでいる。11月の中間選挙で勝つことが目標だ。特に、大統領弾劾の訴追権がある下院で民主党に過半数を奪われないこと。コアな支持者をしっかり固めたい。イランの核開発を制限するために米欧など6カ国がイランと結んだ核合意からの離脱やエルサレムへの大使館移転などの公約を守り、政治家としてのアピールを強めている。オバマ前大統領はこの外交政策に関しては実行力がなかった。

 米朝首脳会談でも北朝鮮の核兵器の脅威を封じ込めたという点で、選挙の準備としては大成功だ。通常はリベラルの発想と言われる「信頼醸成」から入ったのも興味深い。保守派なのに和平をやっている。非核化の検証がないと指摘されるが、大多数の人は戦争よりましだと考える。

 トランプ氏は今回、金氏が合理的で核抑止の効く指導者であることを確認した。むしろ、米国の関心は軍事的にも経済的にも勢いを増す中国だ。

 ヒロシマ、ナガサキの経験で、人類の中に核兵器使用のタブーはつくられていると思う。戦略的安定を目指し、まず減らすことを考えたい。トップ同士の話し合いが一番大事だ。今後、北朝鮮は査察の受け入れ、米国は中国とも対話しながら休戦協定を平和協定にしていくことを目指し、合意の具体化を図ってほしい。(野田華奈子)

ふなつ・やすし
 1956年、佐賀県生まれ。東大卒。81年、共同通信社入社。モスクワ、エルサレム、ロンドン各特派員、ニューヨーク支局長、編集・論説委員などを経て2016年4月から現職。専門は、国際政治・報道。

(2018年7月3日朝刊掲載)

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