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社説・コラム

『この人』 「ヒロシマ・アピールズ」ポスターを制作したグラフィックデザイナー 服部一成さん

核の脅威 白い雲に表現

 空にぽっかりと浮かぶ白い雲の「?」。一見爽やかなデザインだが、白い雲は原爆のきのこ雲を思い起こさせ、薄水色の空は寂しささえ感じさせる。被爆73年を迎えてなお、身近にある核兵器や戦争の脅威。「多くの疑問が宙に浮いたままだ」。描いたのは、そんなイメージだ。

 核兵器廃絶や平和の尊さを国内外に訴えるため1983年に始まった「ヒロシマ・アピールズ」の今年のポスターを制作した。「ヒロシマが何を訴えているのか、多くの人に考えてほしい」との思いを込めた。

 生まれも育ちも東京。広島を舞台にしたアニメ映画「この世界の片隅に」に心を動かされ、1月に広島市を初めて訪れた。その2カ月後にあったポスター制作の依頼。運命的なものを感じたという。

 代表作は、空にケーキが舞う光景でカロリーオフを表現したマヨネーズ「キユーピーハーフ」の広告や、化粧品会社ポーラのロゴマーク。社会的なテーマでの創作経験はなかった。

 5月に広島市を再訪し、原爆資料館を巡った。被爆者が描いた原爆の絵に衝撃を受け「自分にはヒロシマを代弁する資格も力量もない」と悩んだ。被爆者や若者、海外の人などさまざまな立場の人にメッセージを届ける重圧も感じた。行き着いたのが「結果的に自分らしい」というシンプルな表現だった。

 中高生時代、抽象的な表現でメッセージを伝えるグラフィックデザイナーに憧れ、仕事にして30年の節目。「これまでになく重たい仕事。この経験を今後の創作に生かしたい」。東京都内で妻と3歳の娘と暮らす。(永山啓一)

(2018年7月21日朝刊掲載)

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