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カザフ核実験地 広島に留学したスルタノワさん 苦難追う本出版 

被害住民から聞き書き

 旧ソ連が核実験を繰り返したカザフスタン出身で、山陽女学園高等部(廿日市市)に留学した経験を持つアケルケ・スルタノワさん(35)=東京都在住=が、実験場周辺の約80人の苦難を追う「核実験地に住む」(花伝社)を出版した。(増田咲子)

 同国にあったセミパラチンスク核実験場では、1949~89年に大気圏を含む核実験が450回以上行われ、影響を知らされない周辺住民が被(ひ)曝(ばく)した。一橋大大学院で学んだスルタノワさんは2009、11、12年に一時帰国し、ヒロシマの継承の営みに倣って聞き書きを重ねた。

 初の核実験の証言が生々しい。「空にキャベツのような雲が現れた」「村には霧のようなものが広がって煙のような匂いがした」。さらに53年の水爆実験成功では「その日に家族全員の体調が悪くなった」などと振り返る人もいた。

 ある男性が残したメモも入手した。核実験で住民が強制的に移された時、40人が残される。連れて行かれた草原で待機中に爆発があり、ほぼ毎月、血液検査を受けたという。住民が実験台にされた可能性がある。

 聞き取りを通じ、住民たちが健康への不安を抱えることも浮き彫りになった。心臓病やがんなどに苦しむだけでなく、自殺も多発。女性たちは無事に出産できるかどうか、恐れているという。ある女性は初めて妊娠した時から3回中絶したと明かし、「でも、子どもが欲しい」と語った。

 今月7日に広島で核実験の被害を報告したスルタノワさんは「医療支援の充実に加えて、精神的なケアも必要。ヒロシマ・ナガサキのようにカザフスタンでも証言を大切に残し、被害を世界に広く知ってほしい」と話している。

(2018年7月23日朝刊掲載)

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