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社説・コラム

社説 翁長沖縄知事死去 県民の声 一貫して訴え

 がんで闘病中の翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事が急逝した。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設阻止を掲げ、強硬に移設を進める政府と対峙(たいじ)してきた。ご冥福を祈りたい。

 新たな米軍基地は造らせない―。そんな県民の思いを背景にした姿勢は、一貫していた。

 移設阻止に向けた「最後のカード」と言える、辺野古の埋め立て承認の撤回方針を表明して2週間足らず。早過ぎる死に衝撃が広がったのも無理はない。

 自民党県連幹事長を務めていたが、那覇市長の時、「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」現状に直面したのが転機となった。

 沖縄県内の全41市町村の代表者が2013年に東京を訪れ、街頭でオスプレイの配備撤回を訴えた。しかし本土の人々の反応は鈍い。政府には普天間飛行場の県内移設断念を求めたが、一顧だにされなかった。

 どこの県でも、全自治体が何かに反対すれば、国も腰が引けるはずだ。しかし沖縄の場合はいくら声を上げても政府は無視する。民主主義とは言えず、地方分権にも反する―。そう感じたのも不思議ではなかろう。

 その後、当時の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事が普天間の辺野古移設につながる沿岸部埋め立てを承認した。県外移設を目指す公約に反するとの声が広がり、14年の知事選に翁長氏が立ち、仲井真氏を大差で破って初当選した。

 翁長氏を支えたのが「イデオロギーより(沖縄の)アイデンティティー」を優先する「オール沖縄」と呼ばれる党派を超えた枠組みだった。従来の経済界を含めた自民党系と、米軍基地に反対してきた革新勢力が、日米安保条約に関する考え方の違いなどを超えて結集したのだ。

 もとは自民党の翁長氏がなぜこれほど反対するのか、なぜ経済界を含めた自民党系の人々が支持し続けるのか、安倍政権は真剣に考えるべきである。

 国土の0・6%にすぎないのに、なぜ在日米軍専用施設の70・3%が集中しているのか。各種の選挙で県民が「ノー」を突き付けても、政府はなぜ聞く耳を持たないのか。「国防は政府の専管事項」といった言葉では納得させることはできない。民主主義や、地方分権の問題であることを政府は、きちんと認識しなければならない。

 後任を選ぶ知事選は、当初予定の11月から前倒しされ、9月中に実施される。辺野古移設に関する民意を正面から問う機会になるはずだ。徹底した論戦を期待したい。

 翁長氏は、本土に住む私たちの無理解も問題視していた。例えば、沖縄の経済は基地に依存しているとの誤った認識だ。基地関連の収入は今、4兆円余りの県民総所得の5%程度にすぎない。逆に観光収入は、その3倍にまで膨らんでいる。

 過重な基地負担を強いる代わりに、国が巨額の地域振興策を投じれば、沖縄の人も納得するだろう―。そんな浅はかな考えも放っておけない。基地は経済発展の最大の阻害要因なのだ。那覇市の米軍住宅が返還されて商業地域となり、税収や雇用が大幅に伸びた例があるという。

 国と地方の関係や民主主義の在り方など、翁長氏の問い掛けは基地問題に限らず、私たちにも深く関わっている。真剣に考えて答えを出す必要がある。

(2018年8月11日朝刊掲載)

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