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社説・コラム

社説 福島原発の浄化汚染水 再除去など対応丁寧に

 福島第1原発で汚染水を浄化した水に、トリチウム以外にも複数の放射性物質が除去しきれないまま残留していることが分かった。「トリチウム以外は除去できている」と、東京電力は繰り返し強調していた。だが実際は、半減期が約1570万年のヨウ素129も残留。排水の法令基準値を上回っていたというから驚くほかない。

 たまり続けるトリチウム水について、政府や東電は海洋放出を含めた処分方法の議論を本格化させている。トリチウムは人体への影響は比較的小さいというが、他の放射性物質の残留が判明したからには議論はいったん留保せねばなるまい。

 風評被害を懸念する漁業関係者らにはもちろん、国民にも丁寧な説明が欠かせない。

 東電によると、2017年度に汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化した後に測定したところ、残留が判明したという。検出されたヨウ素129は1リットル当たり最大62・2ベクレル。法令基準値は同9ベクレルであり、大きく上回るレベルである。

 他にも、基準値を下回るものの、半減期約370日のルテニウム106を最大92・5ベクレル、約21万1千年のテクネチウム99を最大59・0ベクレル検出したという。これほど放射性物質が残留していたことは、信頼を損ねる重大な事態と認識せねばならない。

 現在、約680基のタンクにトリチウム水約92万トンが保管されている。タンクごとの放射性物質濃度について東電は「調べていない」というが、早急な調査が求められる。

 常に基準値を下回るまで除去するには、ALPSを頻繁に停止させ、フィルターなどを交換する必要があるそうだ。

 東電は「稼働率を維持し、汚染水のリスクを効率的に低減させることを優先するのが現在の方針」と説明する。調査や再度の浄化を明言しないのは、不誠実と言わざるを得ない。

 東電や政府はトリチウム水の処分方法の検討を急いでいる。保管量が限界に近い上、敷地内にタンクが増え、廃炉作業に影響しかねないためとしている。

 溶け落ちた核燃料(デブリ)取り出しの作業スペースを確保するため、タンクを将来撤去する方針を政府の小委員会は先月了承した。今後、処分方法の絞り込みを加速させるようだ。今月末、福島と東京で開く公聴会もその一環だろうが、いたずらに急ぐことは許されない。

 基準値以下に薄めて海に放出することが有力視される。原子力規制委員会の更田豊志委員長は「唯一の方法」と言う。

 実際、他の原発ではトリチウム水を海洋放出している。希釈すれば残留している他の放射性物質も薄まるに違いないが、タンクごとの放射性物質の濃度が把握できていない現状では基準値以下になるかは分からない。

 それでなくとも福島原発の汚染水を処理した水を海洋放出するとなれば、風評被害を招く恐れがある。そこへ、放射性物質の残留という新事実が明るみに出た。漁業関係者のみならず、国民や国際社会の不信感が募るのは間違いあるまい。

 残留する放射性物質について東電は「フィルターを新しくすれば除去できる。処分方法が決まれば対応する」というが再浄化が先ではないか。処分方法はその上で慎重に検討すべきだ。

(2018年8月21日朝刊掲載)

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