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連載・特集

9条改正論議を注視 自衛隊考える機会 自民総裁選 広島の反応

被爆者団体は危機感

 自民党総裁選(20日投開票)の焦点である憲法9条改正。自衛隊の存在を明記し、秋の臨時国会への党改憲案提出を目指す安倍晋三首相(総裁)と、丁寧な議論が必要と訴える石破茂元幹事長。立候補した2人はともに憲法改正を唱えてきたが、総裁選では9条改正の進め方や内容を巡って舌戦を繰り広げている。被爆地広島は、今後の改憲論議を左右する論戦の行方を注視する。(松本大典)

 告示翌日の8日。広島弁護士会の楾(はんどう)大樹弁護士(43)は、広島市中区であった若手経営者たちの勉強会で、まず質問を投げ掛けた。「憲法って誰が守るもの?」。25人ほどの参加者の半数以上は「国民」と回答。楾弁護士は「正解は国家権力。権力の暴走を抑えるために憲法はある」。

 国家権力をライオン、憲法をおりに例え、立憲主義を解説した著書「檻(おり)の中のライオン」(2016年刊)が話題になり、全国各地を講演に飛び回る。講演はこの日で181回目だが、「憲法を多くの人が知らない」との思いを強める。

「機運は高まる」

 安倍氏と石破氏は14日、日本記者クラブ主催の討論会でも9条改正を巡って論戦。安倍氏が提唱するのは戦力不保持を定めた9条2項を維持し、自衛隊を書き加える案。「憲法改正に挑戦し、日本の新しい時代を切り開く」と強調した。石破氏は「本質をきちんと改正しないまま、書けばいいでしょ、ということではない」と反論。9条2項を削除する持論を説明し、参院選「合区」解消を優先すべきだと主張した。

 総裁選の結果次第で、改憲の流れは加速する可能性がある。「自衛隊への国民の信頼は厚い。その負託に応えられるよう、少しでも早く改憲を」。自衛隊退職者でつくる広島県隊友会の寺尾憲治会長(71)は望む。

 陸自第10師団長を務めていた02年ごろ、国連平和維持活動(PKO)の一環で隊員を海外へ送り出した。派遣先の一つ、ゴラン高原の視察時に受けた部下の報告が忘れられない。「輸送任務なのに武器を運べず、他国の軍隊に理解してもらえないと苦慮していた。自衛隊の在り方は国際的な常識からかけ離れている」

 改憲賛成の立場で憲法に関する講演会を重ねる日本会議広島の蓼(たで)征成事務局長(58)も「最近は中高生の参加も目立つ。機運は高まっている」と言う。

筋道立てる準備

 平和憲法がないがしろにされていないか―。被爆者団体は、9条を巡る議論に危機感を強める。「被爆者の思いから、さらに遠ざかる」と県被団協の箕牧(みまき)智之副理事長(76)。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(73)も「国民が議論についていけていない。国は災害対応など先にやるべきことがある」と非難した。

 改憲阻止の運動を続ける第九条の会ヒロシマの藤井純子世話人代表(67)は「自衛隊明記に何となく賛成している人、あまり考えていない人に立ち止まって考えてほしい」と話す。

 「ライオンが、おりを変えたいという時こそ要注意」。楾弁護士は講演をこう締めくくった。「主義主張は関係ない。改憲の是非を問う国民投票になった時、私たちは、筋道を立てて考えられるよう準備しておく必要がある」

(2018年9月17日朝刊掲載)

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