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仲間の支えで証言再開 呉の自宅被災 被爆者の中西さん

 西日本豪雨で被災した呉市安浦町の被爆者中西巌さん(88)が19日、原爆資料館(広島市中区)で約2カ月半ぶりに体験証言に臨んだ。同館の証言者を20年近く務めるが、自宅が浸水して関連資料も泥をかぶるなどして中断していた。ともに原爆の被害を伝えてきた仲間たちの支援を励みに、活動を再開した。

 この日、中西さんは三重県からの修学旅行生に証言した。「水害のショックで証言は終わりにしようとも思ったが、皆さんの将来と平和のために少しでも役に立つには、やはりこれしかない」。自宅にまだ泥が残っているなどと被災状況にも触れ、力を込めた。

 中西さんは広島高等師範学校(現広島大)付属中4年時、爆心地から2・7キロの動員先の広島陸軍被服支廠(ししょう)で被爆。2000年から証言者を務め、豪雨直前のことし7月5日にも広島市内で体験を話した。

 しかし7日朝、濁流が平屋の自宅に流れ込んだ。「一瞬死ぬと思った」と中西さん。資料館への移動に使う車は水没。原爆に関する資料や写真も大半が泥にまみれ、廃棄せざるを得なくなった。

 その後の証言予定はキャンセル。気落ちしていた中西さんを、被爆証言仲間や自身の記憶を受け継ぐ被爆体験伝承者、ともに旧被服支廠の保存に向けて活動してきた市民が相次いで励まし、カンパを寄せてくれた。「力になった」。再び証言に立とうと決めた。

 中西さんは「原爆の資料や写真は豪雨に奪われても、悲惨な記憶は脳裏に焼き付いている。その記憶を残された年月で語り続けたい」と話している。(水川恭輔)

(2018年9月20日朝刊掲載)

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