×

連載・特集

あすの岩国 市議選を前に 増す爆音 安全どう守る

 岩国市議選(14日投開票、定数30)が7日に告示される。市政の長年の懸案だった米軍岩国基地への空母艦載機移転が3月末に完了する一方、市民には騒音への懸念が広がる。西日本豪雨では防災・減災対策の必要性を改めて突き付けられた。人口減少も進む中、まちづくりにどう取り組むのか。市議選を前に市の課題を探る。

基地問題 艦載機で激変 共存策議論を

 「突然の爆音に襲われ、ショック状態になる。うるささは以前の倍以上」。岩国基地そばで暮らす主婦上村雅子さん(72)=岩国市中津町=は、空母艦載機移転後の騒音状況をそう言い表す。

所属機が倍増

 2006年の日米合意後、10年余りの曲折を経て現実となった厚木基地(神奈川県)からの艦載機移転。岩国基地は所属機が約120機に倍増し、極東最大級の航空基地に変貌した。

 移転完了後の4、5月。市民は「変化」を体感した。東京・硫黄島での陸上空母離着陸訓練(FCLP)などに伴い、岩国での離着陸も活発化。騒音回数は10年の滑走路沖合移設後の月別最多を2カ月連続で更新し、苦情も激増した。

 8月以降、艦載機は空母の航海に同行しており、離着陸回数は減った。過去の厚木での運用を踏まえると岩国への帰還は11、12月ごろとみられる。「またあの爆音を聞くと思うと憂鬱(ゆううつ)で…」。上村さんはため息をつく。

 かつてない環境変化に直面する市民。だが新たな負担に対し、安心安全の課題は積み残されたままだ。

 その一つが、市や基地が米軍機の運用ルールなどを話し合う岩国日米協議会の確認事項だ。協議会が四半世紀以上にわたって開かれない中、確認事項の一部は形骸化し、守られない例も目立つ。市や基地は事務的な見直し協議を始めたが、まだ成果は見通せない。

 市が08年に国へ求めた安心安全対策は、全43項目のうち9項目がなお「未達成」。騒音関係に加え、日米地位協定見直しなど米軍関係者の増加を見据えた治安対策も含まれる。

 4月には、基地内で拘束されていた米軍人がフェンスを乗り越え逃走する事件も発生した。日米のパトカーが行き交う様子を目撃した上村さんは、外国人に自宅侵入された過去を持つ。「交通事故も含め、心配の種は尽きない」

給食費無料に

 一方、移転の「メリット」を生かす動きもある。基地関連の財源は小中学校の給食費無料化などに回され、日米交流も活発化し始めた。8月に神奈川から引っ越したばかりの主婦(41)は子育て支援策を評価。ただ「良い点ばかり前面に出し、安心安全をなおざりにしないで」と望む。

 9月の市議会一般質問。基地監視団体「リムピース」共同代表で引退を決めた田村順玄市議(73)は、23年余りの議員生活を締めくくる質問の中で強調した。「引退の決断に、多くの人から『基地についてもっと声を上げてほしい』との声をもらった。それは同僚議員への市民からのエールでもある」

 真に市民が安心して暮らせる地域をどうつくるのか―。新市議には立場や考えの違いを超え、市や国、米軍に行動を促す活発な議論が求められる。(松本恭治)

米空母艦載機移転
 在日米軍再編に伴い、厚木基地から空母艦載機を岩国基地へ移す計画。岩国市や県は昨年7月に移転容認を国に伝え、同年8月から今年3月末にかけて4機種の計約60機が配備された。今年後半までに軍人と軍属、家族の計約3800人も岩国へ引っ越し、基地関係者は1万人を超えるとされる。

(2018年10月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ