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社説・コラム

社説 インド太平洋構想

域内の安定につなげよ

 安倍晋三首相が来日したペンス米副大統領と会談し「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現へ、認識が一致した。両国で8兆円のインフラ支援を行うという。域内の安定と真の発展につながるなら意味はあろう。だが中身については見極めるべき点が多々ありそうだ。

 インド太平洋構想は最近まで「インド太平洋戦略」と呼ばれていた。太平洋からインド洋に及ぶ地域で、安全保障や経済成長への協力を呼び掛ける安倍氏の看板政策といえよう。念頭にあるのは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」である。

 「戦略」を「構想」に言い換えたのは、軍事用語でもある戦略が中国を刺激しかねないとの判断からだ。春先には中国側から文言について自粛要請も内々に伝えられたという。日中関係の改善を目指す安倍氏としては、ここは柔軟に臨む方が得策と判断したに違いない。

 今回の会談では二つの大洋を舞台に新たな日米協力を演出しているようだが、インフラ支援の中身が、液化天然ガス(LNG)に絡む投資に傾斜している点が解せない。

 米国は「シェール革命」によって世界最大の天然ガス生産国となり、日本も輸入を始めている。アジアのLNGの需要は経済成長に伴って日増しに高まっており、米国はLNGの輸出先として、日本は輸入基地などインフラの輸出先として、アジアを重視しているという。

 日米両政府ではLNGを巡っては利害がおおむね一致していると思えるが、東南アジアや東アフリカなど域内の諸国にとってはどう映るのだろうか。LNGの需要拡大が域内の国々の政財界など一部の利益だけでなく、広く国民に福利をもたらすような経済協力につながらなければなるまい。

 インド太平洋構想のネックは日米首脳の中国に対するスタンスの違いにもあるだろう。確かに安倍氏とペンス氏はともに「日米同盟」を強調した。しかし安倍氏は先月末に訪中して習近平国家主席と会談し、南シナ海問題などを封印して中国との関係改善を急いでいる。

 一方のペンス氏は、中国が相手国に返済不能な資金を貸し付け「借金漬け」にして港湾の運営権などを手中にしていると、先月演説で非難した。日本の対中姿勢もけん制している。米中の間には貿易戦争も勃発しており「新冷戦」の様相だ。

 これに対し中国は、政府系メディアの環球時報を通じて「日中関係への米国の影響力には限界がある」「良好な日中関係は日本の日米同盟における独自性も高める」と日米間にくさびを打ち込んでいる。言われるまでもなく、日米中の複雑な綱引きの中にあって日本は独自の外交姿勢を貫くべきである。

 とはいえ、民主党が下院を握った中間選挙を受けて、米国内の政局が混乱する可能性はあろう。トランプ大統領が対中姿勢のみならず対日姿勢を硬化させる局面も否定できない。

 東アジアの重要な問題である北朝鮮の非核化や拉致問題を巡っては、安倍氏とペンス氏の間に認識の一致はみなかった模様だ。インド太平洋構想は域内の安定と関係国の国民レベルの繁栄に寄与することが第一だろう。「米国第一主義」の露払いであってはなるまい。

(2018年11月15日朝刊掲載)

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