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社説・コラム

核禁止条約 日本は署名を ICANキャンペーン・コーディネーター ダニエル・ホグスタ氏に聞く

広島初訪問 廃絶へ決意新た

 核兵器禁止条約の成立を推進し、昨年のノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のキャンペーン・コーディネーター、ダニエル・ホグスタ氏(31)が被爆地広島を初めて訪れた。中国新聞のインタビューに応じ、日本政府に今すぐ条約に署名するよう求めた。(桑島美帆、金崎由美)

  ―ノーベル賞受賞から1年。核兵器廃絶への追い風を感じますか。
 受賞効果で、ICANの信頼度はぐんと上がった。私たちは核保有国だけでなく日本のような「核の傘」にある国々への働きかけを強めている。現在、条約の批准国の数は19。発効要件の50には達していないが、他の条約と比べても順調なペースだ。南アフリカやアイルランドも批准に向かっており、2019年末までの発効を目指す。

 また「核兵器に投資するな」のキャンペーンも展開している。金融機関を対象に、核兵器製造に携わる企業への投資をやめるよう訴えてきた。オランダとノルウェーの年金基金は、核関連企業への投資を止めることを決めた。両国とも北大西洋条約機構(NATO)で米国の核の傘にある。非常に力強い動きだ。

国連決議案 月並み

  ―被爆国日本は核兵器禁止条約に反対し、1994年から毎年国連に提出してきた核兵器廃絶決議案の内容も後退しています。
 日本政府が繰り返す(核保有国と非保有国の)「橋渡し」という言葉は「何もしたくない」に聞こえる。本気で橋渡し役をしたいのなら核軍縮を先導し、今すぐ条約に署名して同盟国の米国に圧力をかけるべきだ。日本の決議案は今年、これまで以上に月並みな言葉を並べ、米国はそれにすら反発した。何のための決議なのか。日本国内向けに「核廃絶に取り組んでいる」とアピールしているようにも見える。

  ―ヒロシマ・ナガサキは被爆者だけでなく、核廃絶運動の担い手も高齢化が進んでいます。ICANのように若者を巻き込むには。
 被爆者の証言は非常にパワフルだ。核兵器禁止条約も被爆者や日本の運動がなければ実現できなかった。若い世代が被爆証言や被爆地の歴史に触れれば1世代前の人と同じように、何かしなければと思うはずだ。

 若い世代はソーシャルメディアを自由に操り、独創的に発信して情報を拡散する。ICANも担当者を置き、発信に力を入れている。ただ、発信方法に工夫がいる。原爆の悲惨さを伝えることは重要だが、若い人が共感し、行動に移そうと思う仕掛けが必要だ。

原爆資料館で衝撃

  ―核兵器廃絶運動を始めたきっかけは。
 大学で国際法を学び、関心を持った。進路に迷っている時にICANの活動を知り、のめり込んだ。核問題は安全保障や米国とロシアの対立、北朝鮮情勢など一般の人には遠く複雑に感じるが、非常にシンプル。誰にとっても不正義で、非人道的なものだ。原爆資料館では原爆で亡くなった小さな男の子の三輪車や、8月5日で止まったままの少女の日記に衝撃を受けた。未来に向け、運動にもっとまい進せねば、という思いを強くした。

ダニエル・ホグスタ
 スウェーデン出身。12年、英エディンバラ大卒。スイス・ジュネーブのICAN本部でインターンシップを始め、13年からスタッフに加わった。ネットワーク・コーディネーターなどを経て18年現職。

(2018年11月26日朝刊掲載)

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