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社説・コラム

天風録 『米国のフロンティア』

 欧州で名をなしたチェコの作曲家ドボルザークは破格の待遇で米国に招かれる。教壇に立つ傍ら交響曲第9番「新世界より」を完成させた。初演されたのと同じ125年前に、歴史学者が発表した論文が名曲に負けない反響を呼んだ▲西部に広がる「自由な土地」を開拓していく中で、個人主義や経済的平等、民主主義の発展が促されてきた。そうやって米国の独自性が生まれたというフロンティア学説である。国民に受け入れられたのもうなずける▲開拓はさらに西へ進み、大陸の端まで行き着くと太平洋が新たなフロンティアとなった。第2次大戦に勝ち、欧州列強を抜いて超大国の地位を固めた米国。次のターゲットはやはり、ここしかなかったのだろう。宇宙である▲人工衛星の打ち上げや有人宇宙飛行では当時のソ連に後れを取ったものの、月面着陸では先んじることができた。今度は軍まで創設するという。指示書に署名したトランプ大統領の大まじめな姿には危うささえ感じる▲もはや西にはフロンティアがないから上へ向かうしかないのかもしれない。西部開拓では、先住民らが武力で踏みにじられた。そんな負の歴史を宇宙で繰り返してもらっては困る。

(2018年12月21日朝刊掲載)

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