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社説・コラム

「戦争書き残す使命」意識 作家 小手鞠るいさん 原爆題材に3部作

 恋愛小説の名手として知られる備前市出身の作家小手鞠るいさん(62)=米ニューヨーク州在住。今夏に刊行した「ある晴れた夏の朝」(偕成社)をはじめ、近年は原爆や戦争をモチーフにした物語を意欲的に手掛けている。一時帰国した小手鞠さんに、執筆に込める思いを聞いた。

 10代の読者に向けた「ある晴れた夏の朝」は、米国の高校生8人が広島、長崎への原爆投下の是非を討論する物語だ。4歳まで日本で過ごした日系米国人のメイは、先輩に誘われ、否定派として公開討論会に登壇することになる。

 8人は、中国系やユダヤ系、アフリカ系など多様な設定にした。「子どものバックグラウンドが、どのような原爆観や戦争観を形成しているかを描きたかった」からだ。メイたちは資料を読み込み、討論を重ねる中で、真珠湾攻撃や日中戦争、人種差別問題などへと論点を広げ、戦争や原爆への考えを深めていく。

 小手鞠さん自身、原爆はあくまでも悲劇だと捉えられていると思ってきた。だが、1992年に米国に移り住み、米国では、原爆は「戦争を終わらせるために必要だった」と考える人が多いことに衝撃を受けた。「戦争に対する考え方が重層的になった。その視点から書けば、私らしい物語が描ける」と感じた。

 米国が広島、長崎に原爆を投下したのはなぜか。それまで日本は、どのように戦争を戦っていたのか。さまざまな視点から子どもたちに伝えていく必要があると考える。「でも、私の考えを押し付けてはいけない。作中の8人それぞれが悩み、葛藤する姿から読み取ってほしい」と力を込める。

 「欲しいのは、あなただけ」や「エンキョリレンアイ」などの恋愛小説を手掛けてきた小手鞠さん。戦争と向き合う転機となったのが「アップルソング」(2014年)だ。編集者から「これまでと違った作風を」と助言を受け、岡山空襲を生き延び、米国で戦争報道写真家となる女性を描いた。

 小手鞠さんの父は岡山空襲を体験している。その記憶を漫画に描き、10年ほど前に送ってくれていた。見返すうち「父の生きてきた時代や戦争を物語に書き残す使命がある」と意識するようになった。漫画には、岡山駅に運ばれてきた被爆者の様子も描かれ、そこから原爆へと関心を広げた。

 その後、太平洋戦争を生き抜いた日系人家族の3世代を描いた「星ちりばめたる旗」(17年)、戦後間もない日本で若者が米国の平和運動家の女性と文通する「炎の来歴」(18年)を相次いで刊行。「どちらも、原爆が物語の要になっている。私の中では、『ある晴れた夏の朝』と合わせて原爆3部作ですね」

 次代の担い手にも期待を寄せる。「原爆や戦争について、与えられた教材ではなく独自のアプローチで向き合ってほしい。私の本が、一歩を踏み出すきっかけになれば」と願う。(石井雄一)

(2018年12月26日朝刊掲載)

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