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社説・コラム

社説 原子力施設 巨額の廃止費用 「負の遺産」責任は重い

 原子力に関する研究や技術開発を行う国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」が、廃炉や廃棄物処理にかかる費用の全体像を初めて明らかにした。

 機構が青森、茨城、福井、岡山の4県に保有する原子力関連の79施設を廃止した場合、かかる費用を試算すると約1兆9千億円にも上るという。既に廃炉に向けた作業が始まった高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)などを含めた金額である。

 試算の公表は、昨年の原子炉等規制法改正で義務付けられたのを受けたものだ。しかしあまりにも巨額で、廃止の難しさを示すために明らかにしたのではないかと勘繰りたくなる。

 この額には、廃止までの維持費や老朽化対策費は含まれておらず、費用は一層膨らむに違いない。さらに廃止作業には最長70年かかる。先行きの見通しのないまま原子力を推進し、放射性廃棄物の処分など「負の遺産」を生んだ責任を、政府は重く受け止めなくてはならない。

 まず問題になるのは、これだけの廃止費用をどう工面するかだ。機構が積み立てているのは一部のみだという。年間収入は1700億円ほどにとどまるため、長期間かけて国に予算を要求することになる。国の交付金による運営だから、結局は将来にわたり国民の負担になる。

 機構によると、79施設の半数以上は今後10年間で廃止する方針が決まっている。それ以外は利用を続けるというが、続ければ今度は維持費が膨らむ。

 今回の試算で特に額が大きいのは、約7700億円の茨城県東海村の東海再処理施設や、約1500億円のもんじゅなどだ。しかし盛り込まれている費目は、除染を含めた施設の「解体費」▽放射性廃棄物をドラム缶に詰めるなどの準備作業でかかる「処理費」▽実際に処分場に埋設する「処分費」-だけだという。

 当面の廃液処理に伴う維持費などを加えると、東海再処理施設は約1兆円、もんじゅは維持費を含め約3750億円にも上る。高速炉や再処理施設の廃止はこれまでに経験がなく、放射性廃棄物の処分先も決まっていない。専門家から「不確定要素が大きすぎる」「1兆9千億円の試算も最低限の額であてにならない」といった批判の声が上がるのも当然だろう。

 ウラン鉱石の採掘やウラン濃縮技術を開発した岡山県鏡野町の人形峠環境技術センターは、多くの低レベル放射性廃棄物や劣化ウランを保管しているそうだ。ウランの国産化を目指したものの結局は輸入に頼ることになり、主な役割を終えた。無用な開発で廃棄物を生んだ例といえよう。機構ではほかにも、もんじゅのように事故やトラブル隠しが相次ぎ、成果を出したとはいえない施設が多い。

 最も大きな問題はこうした課題を抱えながら、政府が核燃料サイクル政策を、手放そうとしていないことではないか。

 原発の使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムはたまり続け、国際社会から軍事転用を疑う厳しい目が向けられている。にもかかわらず、青森県六ケ所村の再処理工場稼働を諦めず、もんじゅの後継炉開発も模索する政府の姿勢は理解できない。ここらで60年余りの原子力政策を総括し、核燃料サイクルを白紙に戻すべきだ。

(2018年12月29日朝刊掲載)

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