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連載・特集

ヒロシマの記録2018 1~6月 朝鮮半島の非核化 注視

 核兵器を巡り世界情勢が大きく動いた一年だった。

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が6月、初めて会談に臨み、「朝鮮半島の完全非核化」を含む共同声明に署名した。ともに核抑止論を盾に、あわや戦争かと思うほど激しい応酬を繰り広げていただけに、その実効性には疑問符がつきまとう。

 また、トランプ氏は旧ソ連と結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約にロシアが違反しているとして破棄を表明し、ロシアのプーチン大統領が「対抗策を取る」と応酬した。核軍縮の議論に逆行する不穏な流れが見える。

 政治的な道具や国益を守るための手段にしてはならない。核兵器がもたらす非人道的な惨禍に各国の指導者は目を向ける必要がある。核に頼ろうとする考えを転換する原動力になるのは、国際世論にほかならない。昨年、非政府組織(NGO)の立場で核兵器禁止条約の制定に貢献したとして「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))がノーベル平和賞を受賞。廃絶を願う被爆者の長年の訴えに光が当たった。条約への賛同を呼び掛ける取り組みは国境を越え、市民レベルで広がりを見せている。

 だが、米国の「核の傘」の下にある日本政府は、条約に背を向けたままだ。安倍晋三首相は8月6日の平和記念式典後、あらためて条約に参加しない考えを示した。被爆地と被爆国の溝は埋まらず、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自認する日本政府の立ち位置も揺らぐ。被爆75年の2020年には、核軍縮について話し合う5年に一度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議がある。廃絶を実現するためには、核抑止論に頼らない国家の安全保障の在り方も本気で議論されなければならない。

 被爆者の平均年齢は82歳を超えた。速やかな核兵器廃絶と平和を希求する価値観をどう広げ、市民社会の連帯につなげるのか。政治指導者の心にどう響かせるのか。19年4月25日には、展示をリニューアル中の原爆資料館本館が再オープンする。実物資料を充実させるなど、来館者に被爆の実態がより伝わりやすくなるよう工夫を凝らす。ローマ法王フランシスコも、同年末に被爆地の広島・長崎を訪問したいとの意向を示している。混迷する世界情勢の中で、ヒロシマの役割と発信力をあらためて考えたい。(野田華奈子)

1月

1日 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「新年の辞」で、    米本土全域が北朝鮮による核攻撃の圏内にあるとの認識を表明。核弾頭と弾    道ミサイルを量産し、実戦配備に拍車を掛けるように指示する
5日 核兵器禁止条約を巡り、山口県内19市町の首長の過半数の11人が「署名    するべきだ」と考えているアンケート結果を中国新聞が報道。条約に署名し    ていない日本の対応が適切かどうかについては「どちらともいえない」が1    4人と7割を超える
9日 韓国と北朝鮮の南北当局間会談で、北朝鮮が韓国・平昌冬季五輪に参加する    と正式に表明▽広島市が改修計画を進めている平和記念公園の被爆建物、レ    ストハウスを1月末で休館すると発表
13日 2017年のノーベル平和賞を受けた非政府組織(NGO)「核兵器廃絶     国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のベアトリス・フィン事     務局長が長崎市であった討論会で、核兵器禁止条約に背を向ける日本政府     に対し「広島、長崎を繰り返してもいいと考えるのか」と批判
15日 フィン事務局長が広島市を初訪問。「全ての国が核兵器禁止条約に参加     し、廃絶を」と訴える
16日 米国とカナダが共催する北朝鮮の核・ミサイル問題に関する20カ国外相     会合がカナダのバンクーバーで開かれ、各国の独自制裁強化を含む北朝鮮     への圧力維持と強化で一致
19日 マティス米国防長官がトランプ政権初の国家防衛戦略を発表。中国やロシ     ア、核・ミサイル開発を進める北朝鮮をにらみ、米軍の優位維持や同盟国     との関係強化が「力による平和」の維持につながると訴え
22日 原爆投下当日に市民の惨状を収めた広島市の御幸橋西詰め(現中区)の写     真に写っていることで知られる河内光子さんが86歳で死去
25日 米誌が、地球最後の日までの残り時間を概念的に示す「終末時計」を17     年から30秒進め、残り「2分」と発表。1953年と並び過去最短に
26日 平和記念公園地下に残る、原爆で壊滅した旧中島地区の街の遺構の展示公     開に向け、広島市が2018年度に整備計画作りに着手する方針を固め     る。被爆75年となる20年度の公開を目指す
31日 安倍晋三首相が日本被団協提唱の「ヒバクシャ国際署名」に賛同しないと     表明。署名が核抑止力を否定する核兵器禁止条約の締結を求めていると     し、米国の核抑止力を維持する必要性を強調▽広島市が、南区の被爆建物     「E.R.E宇品御幸ビル」(旧中国配電南部変電所)が解体されると発     表▽広島と長崎で被爆後に帰国した韓国籍の男女31人が長く被爆者援護     法の適用外とされたのは違法として遺族が国に損害賠償を求めた集団訴訟     で、大阪地裁は民法の除斥期間で請求権が消滅したと判断、全面敗訴を言     い渡す▽被爆地広島の復興の草創期から日雇いの被爆者たちと歩む労組を     つくり、半世紀以上にわたって労働運動を担った吉田治平さんが95歳で     死去

2月

2日 トランプ米政権が新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表。    核兵器の使用条件を緩和し、小型核の開発を盛り込んだ。「核なき世界」を    掲げたオバマ前政権の方針を転換し、核軍縮の停滞は必至に
8日 北朝鮮が朝鮮人民軍創建70年の記念日を迎え、軍事パレードを実施。米本    土を射程に収める新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)も登場
9日 韓国・平昌五輪が開幕。核開発を続ける北朝鮮の参加で政治色が全面に出る    異例の大会に▽安倍晋三首相が韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と会    談し、北朝鮮の核・ミサイル問題で日米韓が連携して圧力を最大限にまで高    める方針を確認▽原爆症の認定申請を国が却下したのは不当として、広島市    で被爆した2人が却下処分の取り消しなどを求めた訴訟の控訴審判決で、広    島高裁が双方の控訴を棄却
10日 「世界平和巡礼」をはじめヒロシマの証言活動に努めてきた松原美代子さ     んが85歳で死去
14日 秋篠宮妃紀子さまが平和記念公園を訪れ、原爆慰霊碑に献花される
19日 広島大が平和科学研究センター(広島市中区)を4月1日から「広島大学     平和センター」に名称を変更し、機能強化すると発表。原爆や被爆、核兵     器廃絶に関する「ヒロシマ平和研究」と、平和構築や貧困、難民問題など     の「グローバル平和研究」の2本柱
27日 被爆死した米兵捕虜を研究し、16年に広島を訪れたオバマ米大統領(当     時)と対面した広島市西区の被爆者、森重昭さんが5月下旬から初訪米す     る計画が判明
28日 広島市で被爆後に韓国や台湾に渡った男女5人が長く被爆者援護法の適用     外とされたのは違法として、遺族が国に損害賠償を求めた訴訟2件の判決     で、広島地裁と大阪地裁はいずれも請求を棄却。民法上の除斥期間が過ぎ     たと判断

3月

1日 ロシアのプーチン大統領がICBMなど複数の最新の戦略核兵器開発に成功    したと表明▽広島市が養成した「被爆体験伝承者」と、被爆体験記や原爆詩    を朗読するボランティアを全国に無料で派遣する事業の申し込み受け付けを    国立広島原爆死没者追悼平和祈念館が開始
2日 国の重要文化財で19年4月の再オープンに向けて耐震改修工事が続く原爆    資料館本館を巡り、1955年8月24日の開館までの全容を記録した写真    20点が見つかったと中国新聞が報じる
8日 トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と5月までに会談す    る意向を表明▽被爆当日から救護や診療に努めた医師大田萩枝さんが96歳    で死去
19日 広島の被爆者7団体と広島県生協連合会などが、核兵器廃絶を訴える「ヒ     バクシャ国際署名」の県推進連絡会を結成。2020年までに県民の約半     数の140万筆を目指す
27日 核軍縮の方策を探る外務省の「賢人会議」が東京都内で開いた第2回会合     で、核兵器保有国の核軍縮の交渉義務を定める核拡散防止条約(NPT)     体制の強化などを軸とした提言案を取りまとめる
28日 中国政府が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と中国の習近平国家主席が     北京で初めて会談したと発表。金氏は非核化の実現には米国と韓国の「段     階的な措置」が必要との考えを示し、圧力路線を崩さない米国をけん制
30日 原爆資料館が、米国の原爆開発の拠点だったニューメキシコ州ロスアラモ     スで計画していた広島、長崎両市の原爆展について、当初予定の19年度     の開催は断念すると表明。現地のロスアラモス歴史博物館側が、核兵器廃     絶への具体的方策を示す展示がさらに必要と判断したため▽広島市が、原     爆ドームと原爆慰霊碑を結ぶ南北軸の眺望景観について背景の建物が見え     ないよう植栽で隠す考えを明らかに

4月

3日 原爆資料館が、17年度の入館者数は過去最多を更新した16年度から3・    4%減の168万923人になったと発表。1955年度の開館以来、2番    目に多い。外国人の数は39万2667人で5年連続最多を更新。オバマ前    米大統領の来館や核兵器禁止条約の制定などによる関心の広がりが背景に
4日 マツダスタジアムであった広島東洋カープと中日ドラゴンズの試合で、中日    ファンの男性が「原爆落ちろ、カープ」とスタンドからやじを飛ばしていた    ことが判明
5日 国内外で核兵器廃絶の機運を高め、被爆者援護の充実や被爆体験の継承に力    を尽くしたとして、広島市が日本被団協代表委員で広島県被団協理事長の坪    井直氏に名誉市民の称号を贈る
9日 広島県が核兵器を巡る世界36カ国の2017年の取り組みを3分野で採点    した「ひろしまレポート」を公表。核兵器禁止条約の採択を踏まえ、核軍縮    の分野で禁止条約を評価項目に追加。署名や批准が進んでいないとして、N    PTで認められた核兵器保有5大国を含む94・4%の34カ国が前年と比    べて評価を下げた
10日 広島市最大級の被爆建物、旧陸軍被服支廠(ししょう)の見学者が17年     度に1102人と初めて千人を超えたことが判明。修学旅行の平和学習で     の訪問増
19日 ICANが米国やロシアの「核の傘」に入る国は日本、ドイツ、ベラルー     シなど計30カ国あり、安全保障を他国の核兵器に依存することで核不拡     散体制を損なっていると報告。核保有国を米ロ、英国、フランス、中国、     インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の9カ国とし、約1万4200     発の核弾頭を保有と推定
20日 北朝鮮が核実験とICBMの発射実験を中止し、「北部の核実験場を廃棄     する」と決定。事実上の核開発凍結の意思を示し、経済建設に集中する新     路線を打ち出す
22日 カナダ・トロントで先進7カ国(G7)外相会合が開幕し、初日の討議で     北朝鮮の核武装を認めない方針で一致。全ての大量破壊兵器と弾道ミサイ     ルの完全廃棄を目標とし、最大限の圧力を維持して具体的行動を促すこと     も確認した。
25日 スイス・ジュネーブで行われた20年のNPT再検討会議に向けた第2回     準備委員会で、広島市の松井一実市長と長崎市の田上富久市長が演説。核     兵器禁止条約参加や「核なき世界」への前進を促す
27日 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領が板門店の韓国側     施設「平和の家」で会談し、「南北は完全な非核化を通して、核のない朝     鮮半島を実現するという共通目標を確認した」とする板門店宣言に署名。     年内に朝鮮半島の終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換するため米国     や中国を交えた会談を推進することで合意した。金正恩体制で初の南北首     脳会談▽広島市立大が19年4月に国公立大で初となる大学院平和学研究     科を開設すると発表。被爆の記憶や核軍縮について学ぶ科目を設け、平和     の創造・維持に貢献する人材育成を目指す

5月

5日 佐々木禎子さんをモデルにした「原爆の子の像」建立から60年
8日 トランプ米大統領が、イランの核開発を制限するため15年に米欧など6カ    国がイランと結んだ核合意からの離脱を表明。イランへの制裁を再び発動す    ると宣言▽広島県の湯崎英彦知事が、4月下旬にロシアのプーチン大統領の    被爆地・広島訪問を書面で要請したと明らかに
10日 トランプ米大統領がツイッターで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との     史上初の米朝首脳会談を6月12日にシンガポールで開くと発表
21日 米朝首脳会談を前に、ヒバクシャ国際署名広島県推進連絡会が結成して初     めて元安橋で街頭署名を集め、核兵器廃絶を訴える
24日 米ホワイトハウスが北朝鮮側の「敵対的な言動」を理由に米朝首脳会談の     中止を発表▽森重昭さんが、サンフランシスコで自らの活動を描いたドキ     ュメンタリー映画の上映会に出席
27日 米国のオバマ前大統領の広島訪問から2年
28日 森重昭さんが米東部ボストン北郊ローウェルで、被爆死した米兵捕虜を含     む戦没者の慰霊式に参列

6月

1日 トランプ米大統領が、史上初の米朝首脳会談を当初予定通り12日に実施す    ると発表
5日 広島市の松井一実市長が、被爆地広島、長崎への訪問を要請していたローマ    法王フランシスコから、平和推進への取り組みに感謝を伝える内容の返書が    届いたと発表
12日 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がシンガポールで会     談。トランプ氏は「北朝鮮の安全を確約」し、金氏は「朝鮮半島の完全非     核化」を約束。米朝首脳会談は史上初
14日 日本被団協が昨年8月に88歳で死去した谷口稜曄(すみてる)代表委員     の後任に、長崎原爆被災者協議会会長の田中重光氏を選ぶ。朝鮮半島の非     核化の前進を訴える特別決議を採択
18日 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が1月時点での世界の核弾     頭総数が計1万4465個となり、昨年同時点の1万4935個から47     0個(約3%)減少したとの推計を発表。減少のペースが遅く、保有国は     核兵器の近代化を続けていると指摘。北朝鮮については昨年と同じ20~     10個と推定する
19日 広島市中区の本通り商店街に残る唯一の被爆建物、広島アンデルセンの建     て替え計画について、持ち株会社のアンデルセン・パン生活文化研究所が     発表。旧館2階に残る被爆外壁のうち17・3%に当たる約50平方メー     トルを再利用して残す▽放射線影響研究所の丹羽太貫理事長が長崎研究所     の設立70年式典で、前身の組織が当初は被爆者を治療せず研究対象とし     てのみ扱ったことに対し「大変残念に思っている」と述べる▽秋篠宮さま     が平和記念公園を訪れ、原爆慰霊碑に献花される
22日 広島県被団協の佐久間邦彦理事長が総会で「県被団協をどうすればいいの     か考えていく必要がある」と述べ、もう一つの同県被団協(坪井直理事     長)との統合を提案。私見として問題提起
26日 広島市が被爆建物の広島逓信病院旧外来棟について、保有する日本郵政か     ら寄付を受けると発表
29日 井原、浅口市と岡山県矢掛、里庄町の被爆者でつくる県原爆被爆者会井浅     支部の解散が判明。県内の被爆者団体は11団体に
30日 原爆詩人として知られる峠三吉(1917~53年)が晩年、文学仲間に     宛てた手紙2通が見つかったことが判明。病と闘いながら、詩の活動に打     ち込んでいた様子が浮かび上がる

(2018年12月31日朝刊掲載)

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