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[インサイド] 核廃絶へ正念場の一年 平和首長会議 迫る目標の2020年

条約実現 削減は鈍化 被爆者団体 署名集め展開

 広島市長を会長に置く平和首長会議が核兵器廃絶の目標年とする2020年が迫る。ビジョンの柱である核兵器禁止条約は実現したものの保有国が反対の姿勢を崩さず、核兵器削減のペースは鈍化した。その中で広島県は45年を目標にするよう国連に働き掛けると表明した。一日も早い廃絶を訴える被爆者たちは市、県に条約の批准を強く迫るよう求める。被爆地の声をどう響かせるか。正念場の一年となる。(水川恭輔)

 首長会議は、平和市長会議の名称だった03年にまとめた指針「2020ビジョン」で目標年を提唱した。核兵器禁止条約で核軍拡を防ぎ、削減のペースを速めて17年後に廃絶する道筋。20年の設定は「生きている間に廃絶を実現したい」との被爆者の訴えが基調にある。ビジョンに沿い、条約の締結を求める署名をこれまでに約280万筆集め、国連に届けてきた。

 残り3年となった17年、禁止条約は、核兵器を持たない122カ国・地域が賛成して国連で採択された。首長会議は、後にノーベル平和賞を受ける非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン)と連携して、採択を訴えた。

 しかし核兵器数は、最新の18年1月推計で約1万4500発に上る。首長会議のビジョンをまとめた03年の約3万発から半減したが、近年は1年に数百発の減少にとどまる。米国が中距離核戦力(INF)廃棄条約の離脱方針を表明し、核軍拡すら懸念され始めた。

 ICANの「顔」のカナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(87)は18年11月の市への帰郷時、松井一実市長により強く禁止条約の批准を訴えるよう迫った。8月の平和宣言は、長崎市の田上富久市長(首長会議副会長)の宣言とは異なり、日本政府に条約参加を明確に求める言葉がなかった。

 「(広島市長が)とんがらなくてもいい。どんぐりの背比べで(加盟都市)みんなでやる」。松井市長はサーローさんに、首長会議としては批准の要望書を出していると答えた。加盟都市は世界7千都市を超え、日本では既に100%近い自治体が入っている。だが、条約批准に背を向け続ける政府の姿勢を転換させるに至っていない。

 日本被団協や広島の被爆者団体などは、各国に条約の早期批准を迫る「ヒバクシャ国際署名」の署名集めを展開する。03年当時に71歳だった被爆者の平均年齢が現在82歳を超える中、「最後の運動」として20年までに数億筆を目指す。

2020ビジョン
 ①全ての核兵器の実戦配備の即時解除②「核兵器禁止条約」締結に向けた交渉開始③「禁止条約」締結④2020年を目標とする全ての核兵器の解体―の4本柱。00年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書で保有国の「廃絶の明確な約束」が記されながら期限が示されない中、03年に平和市長会議が提唱した。当時の会長は秋葉忠利・前広島市長。市長会議は13年、現在の平和首長会議に改称した。

広島県、条約推進と距離 目標「45年」段階的軍縮に力点

 県は首長会議と比べ、条約推進の動きとの距離が目立つ。まず多くの非保有国で批准して条約を国際規範に浸透させ、市民とともに保有国を参加へ動かす―。条約制定を保有国が反発したまま進めた非保有国のこの戦略について、湯崎英彦知事は「正直非常にナイーブ。(保有国は)より参加しない」とみた。

 湯崎知事もメンバーに加わる県の有識者会議「ひろしまラウンドテーブル」の議論は、条約に反発する保有国や日本政府が主張する「段階的な核軍縮」の具体化が中心だ。県は2018年、45年の廃絶を目標にするよう国連に働き掛けるとしたが、関連の計画案に条約を廃絶へ生かす内容はない。

 「45年」に対し、被爆者からは条約批准による早期廃絶の訴えと相いれず、訴えを拒む言い訳に使われると懸念の声も上がる。

 「(条約を推進する)世界の人々も納得しない」。18年12月、県の担当者と面会した県被団協の佐久間邦彦理事長(74)は強調した。もう一つの県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(76)も「『被爆者が生きている間の廃絶』が運動の柱。20年を見直すにしてもできるだけ早くに」と訴える。

 ことしは、被爆者たちの訴えの後押しとなる機会が相次ぐ。禁止条約は19年後半にも発効要件の50カ国に達する見通し。既に批准したローマ法王庁(バチカン)から法王フランシスコが被爆地を訪れる可能性も高まる。法王は、保有国や日本政府などが禁止条約に反対する理由に挙げる安全保障上の核抑止力の必要性も否定している。

 県は市と同じく法王に訪問を要請し、核抑止政策の危険性や通常兵器による抑止力確保などの代替策を発信している。首長会議や被爆者団体との補完関係が明確に描ければ、広島の禁止条約推進の力は増す。5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議も20年春に迫り、市、県には、被爆者や市民の声に応える連携強化が求められる。

広島県SDGs未来都市計画
 国連が2015年に採択した30年までの達成を目指す貧困や飢餓の廃絶などを巡る「持続可能な開発目標(SDGs)」の次の目標に、「核兵器のない世界の実現」が盛り込まれるよう呼び掛ける。県は次の目標の達成時期が45年となるとにらみ、「被爆100年」の節目として国連に働き掛ける。20年に構想や行程表を示すという。

(2019年1月5日朝刊掲載)

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