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「国際社会の機運と矛盾」 INF条約破棄発表 被爆者ら怒り 核軍拡競争激化も懸念

 トランプ米政権がロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄通告を発表した1日、広島の被爆者たちから「核兵器廃絶を目指す国際社会の機運と矛盾する」と怒りの声が上がった。冷戦終結にもつながった条約の危機に、核軍拡競争の激化を懸念する指摘もあった。(明知隼二、江川裕介)

 広島県被団協の坪井直理事長(93)は「被爆者が求める核兵器の廃絶とは全く別の方向へと向かうもので、失望と怒りを禁じ得ない」とコメントを発表。「(核兵器が)使われ、実際の結果を見ないと危険が分からないのか。核兵器禁止条約の発効へ全力を尽くしたい」とした。

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(74)も「米国は一方的で、何とか優位に立とうとする気持ちが明らかだ」と批判。「保有国も巻き込み、全世界で廃絶への具体的な方向性を打ち出さないといけない」として、保有国と非保有国の「橋渡し役」とする日本政府が主導するよう求めた。

 米国は小型核兵器の開発をはじめ、核戦力の強化に前のめりな姿勢を見せてきた。「米国は新たな緊張をつくり出し続けている」と、市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)の森滝春子共同代表(80)。「条約脱退は核軍縮を決定的に崩壊させかねず、世界中を核戦争の危険にさらす。脱退に反対する米国の平和運動家とも連帯したい」と話した。

 通告の背景には、米国が主張するロシア側の条約違反のほか、中国の積極的な核開発もあるとされる。広島大平和センターの友次晋介准教授(国際関係史)は「米ロが疑心暗鬼に陥っている。脱退通告を交渉カードに、条約の透明性を高めたり、中国を巻き込んだ新たな対話の入り口にできるかが重要だ」と指摘する。

 「仮に米国が脱退して新たな核開発に走れば、保有国の核軍縮義務を定める核拡散防止条約(NPT)など既存の枠組みの正統性を損ないかねない。核超大国である米国には対話を続ける責任がある」と続けた。

 長崎市の田上富久市長と連名で、米ロ両国の首脳に廃絶へのリーダーシップを果たすよう求める文書を送付した広島市の松井一実市長は「市民社会の願いに背くもので到底容認できない」とコメントを発表。「ヒロシマやナガサキの惨禍を繰り返さないために、理性に基づく対話と努力を」と求めた。

(2019年2月2日朝刊掲載)

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