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被爆者の心を聞き取り 広島の臨床心理士6人が出版

地獄のような体験 何を頼りに、どう歩んできたのか

 地獄のような体験から生き延びた被爆者は何を頼りに、どう歩んできたのだろう―。そんな問題意識を持った広島の臨床心理士6人が被爆者の心の動きを聞き取り、「被爆者の人生を支えたもの」(溪水社)として刊行した。(森田裕美)

 6人は、被爆体験が心身にもたらす影響を調べるため、広島市が10年ほど前に実施した面談調査に協力した40~70代のメンバー。被爆者への聞き取りを続ける中で、心の専門家として、被爆当時の状況だけでなく、その後についても考察を深めようとプロジェクトを結成した。

 面談した人の中から被爆地点や性別、属性が重ならないよう10人を選び、家族や健康、差別・偏見に向き合った体験などを、対話しながら聞いた。

 本書はそのやりとりを整理し、分析を加えている。ある人は家族や生活を奪った原爆に対し、感情をまひさせて無意識に心の均衡を保とうとしていた。またある人は、助けを求める人を置き去りにした後悔を、他人との日常的な関わりの中で解消しようとしていた。淡々としたやりとりが、被爆がもたらした傷の大きさを浮かび上がらせている。

 メンバーが驚いたのは、それまで被爆体験をほとんど話したことがなかったという10人が皆、インタビューに応じて語ったことを肯定的に捉えていた点だという。語ることのできる場所と機会を準備してこなかったのでは―と聞く側の課題もつづっている。

 調査の中心となった倉永恭子さん(79)=東区=は「大切なものを突然奪われる経験をした被爆者がそれをどう乗り越えたのか学ぶことは、災害などほかの被害者の理解や支援にもつながる」と今後への期待を膨らませていた。A5判、486ページ。2700円。

(2019年2月11日朝刊掲載)

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