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社説・コラム

天風録 『戦果アギヤー』

 平成最後の直木賞に決まった「宝島」の主人公は米統治下の沖縄で「戦果アギヤー」と呼ばれた若者たちである。フェンスを越え、基地に忍び込んでは物資を盗む。奪われたものは奪い返す―が流儀だ▲何しろ土着信仰の聖地でさえ、土地接収でフェンスの向こう側にある。小学校への米軍機墜落や、米兵による事故を機に住民の不満が爆発したコザ暴動といった史実を交え繰り広げられる物語には、娯楽小説ながら胸が詰まる。沖縄の人たちが流してきた血や涙が想像できるから▲そんな重いテーマを一気に読ませるのは、東京生まれの著者真藤順丈さんが歴史に向き合った本気さ故か。ネット上には早速「沖縄について何も知らなかった」「無関心ではいられない」との自戒が次々並ぶ▲ならば沖縄の今にも目を向けたい。名護市辺野古沖の埋め立ての賛否を問う県民投票がきのう告示された。ところが政府は「地方公共団体の条例に基づいて行うものだ」と突き放す。結果に関係なく工事を進めるとも▲「宝島」の人たちが憤るのは、沖縄を米国に差し出し、理解や関心を示さない本土の人間に対してだ。隔てるフェンスを越えるべきは、私たちなのかもしれない。

(2019年2月15日朝刊掲載)

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