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連載・特集

’19統一選 広島市民からの注文~市長選を前に 被爆地のリーダー

平和行政 発信力求める 核兵器廃絶へ実行も

 「核兵器禁止条約を核兵器のない世界への一里塚とするための取り組みを進めていただきたい」。昨年8月6日、広島市中区であった平和記念式典。松井一実市長は核抑止の思想を否定し、前年の2017年に国連で採択された禁止条約の役割を強調した。

 平和宣言は、歴代の広島市長が原爆慰霊碑を背に、参列する被爆者や市民、海外代表たちに語りかけてきた。その時代の課題とともに、市長のカラーを映し出す。松井氏の2期目最後となった宣言は、禁止条約に背を向ける日本政府に直接的に批准を求めなかったとして、批判も受けた。

 平和行政に詳しい元広島女学院大教授の宇吹暁さん(72)は「外務省とは異なる被爆地なりの国際観が求められるのが広島市長だ。行動と発言に影響力があるからこそ、それを支える思想が問われる」と言う。

 中国新聞の市民100人を対象にしたアンケートでは、市長に求めるリーダー像は「決断力」(43人)が最も多く、続いて「発信力」(37人)だった。

国内外に訴えを

 平和行政を念頭に答えたという南区の会社員曽川江利子さん(47)は「核兵器の恐ろしさや、禁止条約(の批准)を、海外や日本政府に強く訴えてほしい」と求めた。東区の加藤明さん(78)は「原爆被害を世界に訴える市長として、発信力は絶対に必要」とした。宣言への批判は、被爆地のリーダーに寄せられる期待の裏返しでもある。

 現市政は時間をかけて意見を集約する「調整型」の性格が強い。平和行政でいえば、広島大本部跡地(中区)に所有する被爆建物、旧理学部1号館の保存・活用。16年6月に有識者懇談会で議論を始めたが、広島大や市立大の研究機関を集約するとの具体案を示したのは、18年11月だった。

「市民と一緒に」

 元原爆資料館長で、原爆ドーム(中区)の世界遺産化にも携わった原田浩さん(79)は「平和行政は市民と一緒に走らないと動かせない」とし首長は幅広い意見を聞く姿勢が要るという。一方、被爆の記憶を継承する事業で、組織や部局を越えたプロジェクトを主導する力が必要な局面が増えたとも感じる。「声を聞いた上で、さらに一歩踏み出し、前に進む。他都市にない平和行政を担うリーダーには、両面を兼ね備えていてほしい」と注文する。

 アンケートではリーダーの「堅実さ」を重視するとしたのは14人、「調整力・協調性」は13人が挙げた。堅実さを選んだ西区の美容師男性(29)は「政策を着実に実行してほしい」とし、選挙公約の実行力を要望。このほか施策の採算性や、必要な「投資」を見極める目を求める声もあった。

 調整力では、佐伯区の主婦女性(39)が「広島市長は平和宣言以外では目立たない」としながらも「さまざまな人の意見を聞いて判断してほしい」と、配慮に期待した。市民からの注文が多様な中、119万人都市に今、どんなリーダーが必要なのか。論戦が待たれる。(明知隼二)

(2019年3月8日朝刊掲載)

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