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満蒙開拓の体験 後世に 冊子編集 1人で続ける 広島の末広さん

 「戦争は限りない悲劇を生む。きちんと記録し、正しく後世に伝えんと」―。広島市安芸区の印刷会社会長末広一郎さん(93)は、戦中に国策で旧満州(中国東北部)へ渡った「満蒙開拓青少年義勇軍」の一人。歳月を経て、当時を知る仲間が少なくなる中、2年前からたった一人で冊子「満蒙開拓平和通信」の編集・発行を続けている。

 冊子はB5判で80ページほど。関係者への聞き取りや手記のほか、自ら企画した勉強会の報告、関連する新聞記事や出版物などで構成する。先月に最新号の第3号が完成した。

 親孝行だと信じ、海を渡ったのは14歳の時。「命を捨てる覚悟だった」。だが胸に水がたまり療養中に敗戦を迎える。旧ソ連軍の横暴、民を守らぬ旧関東軍、虐げてきた現地の人たちからの反撃、略奪…。そこからは「言葉にできない」ほどの地獄を見た。シベリア抑留の辛苦も味わった。

 4年後に帰国してからも苦労は続く。「シベリア帰り」と差別され、肺の病で職も見つからない。自暴自棄になっていた時に、療養先の病院で詩人峠三吉と出会った。「君は字がうまいからガリ版きりをやっては」と勧められ、印刷の世界へ。以来、「戦争が生む不条理」の記録と発信に努めてきた。「過ちを繰り返さないために、私たちの体験や苦労を知ってもらいたい」

 活字に残すだけでなく、依頼があれば話もする。13日には東京で、市民向けに体験証言する予定だ。(森田裕美)

(2019年4月11日朝刊掲載)

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