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NPT準備委の報告 20年に向けて <上> 核軍縮の約束 保有国 体制の合意軽視

 2020年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第3回準備委員会が4月29日~5月10日、米ニューヨークの国連本部で開かれた。核軍縮を巡る核兵器保有国と非保有国の溝が改めて浮き彫りになり、再検討会議への全会一致での勧告は見送らざるを得なかった。NPT発効50年の節目を迎える来年の再検討会議に向け、見えてきた課題と、道筋を展望する。(明知隼二)

 準備委が開幕した4月29日。「冷戦終結後、米国は核兵器の88%を削減した」。米国のフォード国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)は、これまでの核軍縮で成果を上げてきたと強調し、こう続けた。「しかし、それを可能にした状況は、今はない」

 さらに核軍縮を進めるためには、前提となる安全保障面での「環境づくり」が必要だとして、新たな議論の場を設置するよう提案した。保有国の英国やフランスも同調。米国と対立するロシアも「現実」を考慮に入れる必要があるとし、中国は米ロの核軍縮が先と主張した。5カ国とも「自国以外」の要因を盾に、消極的な姿勢を見せた。

根本原理損なう

 しかしNPT第6条は、保有国に「核軍縮への誠実な交渉」を義務付ける。これを土台にこれまでの再検討会議では「核兵器廃絶への明確な約束」(00年)、核軍縮を含む64項目の行動計画(10年)など、全会一致の合意を重ねてきた。

 保有国が自ら加わったNPT体制の積み上げてきた合意を軽視した―。加盟国は、根本を脅かしかねないとの危機感といら立ちを見せる。軍縮に熱心なブラジルは「条約や過去の合意が議論の共通の足場にならないとしたら、私たちはここで何をしているのか」と批判。オーストリアも「(保有国の)規定を狭く解釈しようとする試みは『合意を守る』という根本原理を損なっている」とぶつけた。

 サイード議長(マレーシア)が終盤に示した再検討会議の勧告案への討議は、亀裂を決定付けた。非保有国の意見を色濃く反映する形で核兵器禁止条約を巡る記述が強まった改定案。フランス代表は「ナイーブなアプローチで、共通のビジョンをつくる土台にはなり得ない」と言い放ち、卓上のマイクをたたきつけた。

 核軍縮が停滞する国際情勢を反映し、当事者国の対立がむき出しになる場面も少なくなかった。米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を巡っては、相互に相手に非があると批判。米国は、昨年5月に一方的に離脱したイラン核合意や、15年再検討会議の決裂要因となった、イスラエルの非核化を見据えた「中東非大量破壊兵器地帯」構想を巡っても、イランやシリアと舌戦を繰り広げた。

 長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授は米国の態度を「軍縮を進めない理由に外部の環境を挙げつつ、自ら敵を生み出しているようにも見える」と疑問視した。

実務面で成果も

 来年の再検討会議に向けて暗雲が漂う中、実務面では一定の成果があった。再検討会議議長にアルゼンチンの在ウィーン国際機関政府代表部のラファエル・グロッシ大使が選出された。勧告案の採択を見送らざるを得なかったサイード議長は「あとは中身の議論に集中できる」と、ほっとした表情を見せた。

 広島と長崎の訪問経験があるグロッシ氏は準備委最終日、政府関係者や非政府組織(NGO)、若い世代との議論の場を世界各地で設けると表明した。「各国に考え方の違いがあることは明らかだが、来年の失敗は誰の利益にもならない。私の仕事は準備委が終わった瞬間から始まる」。深まった溝を埋め、NPT体制の維持、強化に向かうことができるのか。道筋を探る努力は既に始まっている。

核拡散防止条約(NPT)

 1970年に発効し、約190カ国が加盟する。米国、ロシア、英国、フランス、中国に核兵器の保有を認める一方、核軍縮の義務を課す。それ以外の国には核兵器取得を禁じ、原子力の「平和利用」を認める。事実上の核保有国のイスラエル、インド、パキスタンは未加盟。北朝鮮は2003年に脱退を表明した。条約の運用状況を点検するため、5年ごとに再検討会議を開催し、その3年前から毎年、準備委員会を開いている。前回の15年会議では、合意文書を採択することができなかった。

(2019年5月16日朝刊掲載)

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