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連載・特集

NPT準備委の報告 20年に向けて <下> 被爆国

煮え切らぬ「橋渡し役」

 米ニューヨークの国連日本政府代表部で4月30日、日本被団協の木戸季市(すえいち)事務局長(79)は、高見沢将林軍縮大使と面会した。2020年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第3回準備委員会に参加するため渡米。日本政府に改めて、核兵器禁止条約から目をそらさずに署名、批准するよう求めた。

 「私があの世に行くのが先か、核軍縮が進むのが先か。被爆国として、原爆が人間に何をもたらすかに立脚してほしい」。面会後、いら立ちを報道陣に漏らした。日本政府は禁止条約に対して、核兵器保有国と非保有国の溝を広げるなどとして署名しない基本姿勢を変えていない。

「米国に配慮か」

 煮え切らない態度は準備委でサイード議長(マレーシア)が示した勧告案を討議する場面でも表れた。禁止条約を「多くの加盟国が支持した」とする記述を巡り、日本は「条約に対する懸念にも言及しては」と、核兵器保有国がNPT体制を分断するなどと批判した意見も入れるよう提案。非保有国が禁止条約の重要性をもっと盛り込むよう求める中で、悪目立ちした。

 対立する国の「橋渡し役」を掲げてきた日本政府。外務省関係者は「あくまで全会一致の勧告を目指す観点での発言だ」と解説したが、非政府組織(NGO)の評価は違う。平和団体「ピーク・インスティテュート」(PEAC)のクリスチャン・チョバヌー国連担当には「米国に気を使い、縛られているようだ」と映った。

 核軍縮の討議でも保有国の立場に同調した。米国は核兵器削減の具体案を示さず、厳しい国際情勢を理由に安全保障面での「環境づくり」を提案。非保有国はNPTの義務を果たさない理由にされると警戒したが、日本は「建設的なやりとりの機会になれば」と歓迎した。保有国に核政策のより詳しい説明は求めたが、核使用のハードルを下げるとされる小型核の開発など、トランプ米政権下で加速する核軍縮の後退については指摘しなかった。

 国際舞台で禁止条約が採択されて以降、米国の「核の傘」に頼る日本の「保有国寄り」との見方は強まりつつある。それだけに被爆者や、被爆地からの草の根の発信に期待する声も多かった。被爆者は精力的に準備委の関連イベントや地元の大学で被爆の実態を証言。広島市の松井一実市長と長崎市の田上富久市長、広島県の湯崎英彦知事たちは現地入りし、核軍縮の前進を訴えた。

市民の行動が鍵

 木戸氏から核廃絶の訴えを直接聞いたサイード議長は、終了後の会見で「被爆者には、若い世代へ核兵器の影響や核軍縮の重要性を伝える重要な役割がある」と強調。来年の再検討会議に向けても「力強いメッセージ」を期待した。

 PEACのチョバヌー氏は、こう強調した。「日本が再び核軍縮のプレーヤーになるために必要なのは、市民社会や若い世代との対話だ。政府を動かせるのは国民のプレッシャーだけ。粘り強く働き掛けてほしい」。核廃絶への訴えの先頭に立つ被爆者は高齢化している。被爆国の政府とともに、市民の行動もまた、問われている。

核兵器禁止条約
 核兵器の開発、保有、使用、使用の威嚇などを全面的に禁止する初の国際条約。前文で「被爆者」の受け入れ難い苦しみに留意すると明記した。2017年7月、国連で122カ国・地域の賛成で採択された。50カ国が批准の手続きを終えた90日後に発効する。現在、オーストリアやニュージーランド、タイなど23カ国・地域が批准手続きを終えている。

(2019年5月17日朝刊掲載)

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