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「シベリア」重層的に 香月泰男展 23日から山口県立美術館

全57作品 8年ぶり一堂 表現の模索と変遷たどる

 戦後日本の美術界に大きな足跡を残した洋画家香月泰男(1911~74年)。生涯にわたって記憶を画布に塗り込めたシベリア・シリーズは全57作品に上る。そのすべてを一堂に公開する特別展「香月泰男のシベリア・シリーズ」が23日、所蔵する山口県立美術館(山口市)で始まる。(森田裕美)

 同シリーズは大作が多いため全点展示の機会は限られ、まとめて見られるのは8年ぶりという。シリーズを軸に習作や素描、晩年の版画など約120点を並べ、一面的に語られがちな「シベリアの画家」の重層的な創作の軌跡に迫る。

 現在の長門市に生まれた。戦中に召集され、旧満州(中国東北部)へ。敗戦後はシベリア抑留を体験した。シリーズは、従軍から抑留まで約4年にわたる記憶を、復員した47年から74年に急逝するまでに描き続けた一群である。

 「1945」は後ろ手に縛られた死体。シベリアへ送られる貨車の中から目にし、脳裏に焼き付いた光景という。著書「私のシベリヤ」にも、現地の人から「私刑を受けた日本人にちがいない」と書き残す。

 この作品のように黒や黄土色などを基調にゴツゴツとした独特な絵肌による表現はシベリア様式と呼ばれ、シリーズの重く暗いイメージとして定着していよう。しかし「埋葬」など、復員して間もない時期の作品は少し趣が異なる。

 本展では同じ時期に描かれたシリーズ以外の油彩画も展観。香月が自らの記憶をどう表現するか模索した時代にも光を当てる。併せて晩年に海外の風景を明るい色調で捉えたリトグラフなど版画作品も紹介する。

 香月は生前、シベリアというモチーフから離れたくても離れられない葛藤をつづっている。萬屋健司学芸課主任は「シリーズの変遷や晩年の作品などを見比べることで、画家としてシベリアの記憶に向き合った香月の人間像にも触れてほしい」と語る。

 中国新聞社などの主催。8月18日まで。月曜休館(5、12日は開館)。

(2019年7月18日朝刊掲載)

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