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3日地上波初放送 「この世界の片隅に」片渕監督に聞く 戦時 映画を「のぞき窓」に

新作 別の「片隅」の人々も

 戦時下の呉、広島でひたむきに生きる人々の姿を描いた大ヒットアニメ映画「この世界の片隅に」が3日、テレビの地上波で初放送される。原作の同名漫画から新たなエピソードを加えた「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」も12月20日に公開される予定だ。74年目の「原爆の日」を前に、片渕須直監督(58)に作品へ込めた思いを聞いた。(田中美千子)

  ―戦争や原爆を扱った漫画を映像化した理由を、あらためて教えてください。
 私は人々の日々の生活を描くのが好きです。とはいえ昭和35(1960)年生まれで、戦時中の様子が想像しにくい。「断層」の向こう側にある世界のように感じていました。そんな中、こうの史代さんの原作に出会いました。目に飛び込んだのは、主人公すずさんが家事をする場面。のどかな人柄の彼女を通じ、戦時中の世界をのぞきに行きたい、と思いました。

  ―製作にかなりの時間をかけられたそうですね。
 ええ。2016年11月公開まで約6年です。映画を見た人に「本当にあった事なんだ」と思ってもらえるよう当時の服装や食料事情、呉の町並みなどを詳しく調べました。

 例えば女性のもんぺ。実は空襲が激しくなるまで意外にも着られていない。理由は「格好悪いから」。当時の雑誌にそんな記述を見つけ、今の人と同じ感覚だと思いました。その瞬間、当時の人々をぐっと身近に感じました。映画を見た人からも「すずさんと同じ時を生き、戦争を体験したように思えた」との感想が届きました。うれしい限りです。

  ―12月公開の新作では何を描かれますか。
 さらに別の「片隅」で生きる人たちにも踏み込みます。詳しくは言えませんが、原爆関連のエピソードも増えます。広島へ救援に向かった呉の人々も、原爆被害に遭っていますから。

  ―「原爆の日」に何を願いますか。
 広島の平和記念公園内の遺構調査では、ビー玉など子どものおもちゃも出てきましたね。平和記念式典会場の真下には、そんなものが残っている。原爆の被害にさらされた人たちが、「あの日」の前、どんな毎日を過ごしていたか、想像してみてください。毎日、懸命にご飯を作っていたすずさんのような人の頭上で、原爆はさく裂しました。理不尽過ぎます。

 映画を「のぞき窓」にして自分たちと変わらない人たちが世界中の「片隅」で戦時下を生きていたことに思いを巡らせてほしいですね。

    ◇

 映画「この世界の片隅に」は3日午後9時からNHK総合テレビで。広島市中区の八丁座では8日まで英語字幕版を上映する。

(2019年8月3日朝刊掲載)

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