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連載・特集

ヒロシマ ナガサキ 中国新聞 西日本新聞 20代記者が見た 互いの式典 対談

 広島と長崎は6日と9日、それぞれ米国の原爆投下から74年を迎えた。中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターの新山京子記者(29)、西日本新聞長崎総局の徳増瑛子記者(26)はいずれも初めてその両日の現場を取材した。広島市の平和記念式典と、長崎市の平和祈念式典。そこで感じた「違い」などについて、感想を語り合った。

全般の違い

司会・歌 手作り感が印象的

 ―式典に違いもあったと思います。印象的だったのは何ですか。
 新山 長崎は式典に手作り感があった。司会は高校生。冒頭に、世界で唯一という被爆者による合唱団の歌があったのも、被爆者の存在をアピールするという点でいいと思う。

 ≪合唱団「被爆者歌う会ひまわり」は2004年に結成され、10年から毎年式典で歌っている。現在の会員は29人。今年の式典では会員以外の被爆者も加わり49人が「聞こえていますか 被爆者の声が」との歌詞で始まる曲「もう二度と」を歌った。≫

 徳増 広島の式典は原爆慰霊碑の向こうに、ずっと原爆ドームが見えていたのが印象深かった。核兵器を使うとこうなると、突き付けられている感じがした。

 新山 それは広島にとっては日常の光景。見方が新鮮ですね。

 徳増 広島で小学生が読み上げた「平和への誓い」も良かった。このくらいの年齢の子どもたちが、原爆で犠牲になったんだと想像できた。

 新山 長崎では被爆者がスピーチする「平和への誓い」があった。自らの被爆体験を具体的に語った後、首相の方に体の向きを変えて「私はこの場で安倍総理にお願いしたい」と、直接訴えたのは非常に良かった。言葉の重みを感じた。

 ≪被爆者代表の山脇佳朗さんは「被爆者が生きているうちに世界で唯一の被爆国として、あらゆる核保有国に『核兵器をなくそう』と働き掛けてください。この問題だけはアメリカに追従することなく核兵器に関する全ての分野で『核兵器廃絶』の毅然(きぜん)とした態度を示してください」と要望した。≫

 新山 長崎の式典会場のあちらこちらに、参列者が持参した千羽鶴が飾られていた。平和祈念像の下には、折り鶴をかたどったデザインが施されていて、長崎でも折り鶴が「平和のシンボル」として広く知られているのだと思った。

平和宣言

長崎 訴えに意気込み

 ―広島は今回初めて核兵器禁止条約について日本国政府に物申しましたね。また長崎も日本政府に対して「核兵器禁止条約に背を向けています」と、これまでに比べて踏み込んだ発言をしたと思います。これについてはどういう感想を持ちましたか。
 徳増 読み比べると、長崎は、例えば「核兵器保有国のリーダーの皆さん」などと、誰に呼び掛けているのか明確にしている。広島は、誰に対して発信しているのか分かりづらい。

 新山 確かに。長崎の式典会場で配られたパンフレットに、平和宣言に出てくる「中距離核戦力(INF)全廃条約」などの用語解説があるのに驚いた。知識がある人たちだけではなく幅広い年代に訴えようという意気込みが分かる。

 ≪長崎市長が読み上げた長崎平和宣言は、17歳で家族を失い、自らも大けがを負った女性がつづった詩を紹介した。「人は忘れやすく弱いものだから あやまちをくり返す だけど… このことだけは忘れてはならない このことだけはくり返してはならない どんなことがあっても…」≫

 新山 平和宣言の作り方も違う。広島は、最終的に市長が書くけれど、非公開の「平和宣言に関する懇談会」でどのような議論があった上で書いたのか、プロセスをもう少し公開した方がいい。広島のメッセージがどのようなものになるのか、市民として知る権利がある。

 ≪長崎では、被爆者や学生、遺族たち15人からなる起草委員会がゴールデンウイーク(GW)明けから3回開かれた。最初は意見を聞き、2回目で市長がたたき台を出し、3回目で最終調整した。≫

 徳増 長崎は人数が多いので決まりにくいとも言われる。広島の平和宣言は、日本政府、核兵器保有国への注文という点で事前には特に期待していなかったが、実際に式典で耳を傾けると、被爆者に寄り添うメッセージが伝わってきた。

参列者など

核廃絶へ思いは一つ

 ―広島は式典時間が50分で、長崎は1時間5分でした。高齢化する被爆者に配慮して、それぞれの会場で水やおしぼりなどを提供するなどの取り組みもありました。一方で参列する方たちの違いも感じましたか。
 新山 長崎は外国人が少ないという印象だった。海外からの参列者に話を聞くと、団体ではなく、家族や友人となど個人として来ているという人が多かった。全体的に、参列者で黒いネクタイをしている人が多いとも思った。

 徳増 長崎は「身内の法事」という感じで、広島は誰でも参加できる雰囲気があった。参列者数も違うけれど、広島は新幹線が通っているとか、そもそもの観光客数も関係しているのかもしれない。

 新山 広島と長崎、両方の式典に参列したという人がいた。広島で原爆犠牲者に祈りをささげて、長崎でも同じように苦しんだ人たちがいると思いをはせたというのがあるのかも。

 ―そのほかは。
 徳増 広島はいい意味で観光地化されている感じがした。式典後に平和記念公園を歩くと、絵画や音楽などで平和を発信しようとしている人がいて、学園祭のよう。公園にいる人たちの中で、新たなコミュニケーションが生まれていた。さまざまな方法で平和を発信することができるのだと気付かされた。

 新山 両方を取材して、核兵器廃絶に向けた思いは一つなんだとあらためて思った。核兵器禁止条約の署名、批准を日本政府に迫る思いも一つだ。

広島市原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)
 広島市中区の平和記念公園で8月6日、開かれる。原爆投下時刻の午前8時15分に合わせ、今年は午前8時から営まれ、約5万人が参列した(主催者発表)。核兵器保有の6カ国を含む89カ国と国連や欧州連合(EU)の代表者らが出席した。

長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典(平和祈念式典)
 長崎市松山町の平和公園で8月9日、開かれる。原爆が炸裂した午前11時2分に合わせ、今年は午前10時40分から営まれ、約5900人が参列した。核保有国を含む66カ国のほか、国連や欧州連合(EU)の代表者らが出席した。

(2019年8月19日朝刊掲載)

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