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緑地帯 中村香織 夢のかたち <2>

 広島の小学校ではほとんど必ず平和教育を受ける。8月6日は登校日。それは当たり前だった。遠足では平和記念公園や原爆資料館に行くし、教室の本棚や図書室には「はだしのゲン」があり、みんな一度は読んでいた。それが当たり前じゃないと知ったのは大人になってからだった。

 東京では8月6日の午前8時15分に平和記念式典を放送しているチャンネルが少なく、意識の違いにショックを受けた。私は一人でひっそりと黙とうしていた。

 8月になれば演劇でもテレビでも戦争を扱った作品が増えるが、つらいから見たくないという考えの人が多くいるのも知った。そういう気持ちも分からなくはなかった。私も小学生の頃は、平和学習で見る映画や原爆資料館の展示が怖く、つらいと感じていたからだ。戦争は恐ろしい、二度と起こしてはいけないという感情になる前に、ショックな映像が脳裏に残り、夢に出てきたり、夜トイレに行けなくなったりした。

 だから祖母が被爆者健康手帳を持っているのは知っていたが、私の方から体験談を聞いたことはなく、どこかで避けていた。祖父母は私が小学生の頃に亡くなってしまい、今では話を聞かなかったことをとても後悔している。

 今となれば、感受性豊かなあの頃に包み隠さず、むごい真実を目に焼き付けることに意味があったと分かる。同時に、入り口はもう少し拒絶されないような学習の仕方があってもいいのではないかとも思う。どちらがいいとは言い難いが、少なからずその思いが朗読劇の表現や演出に大きく影響している。(舞台俳優=東京都)

(2019年8月28日朝刊掲載)

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