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連載・特集

緑地帯 中村香織 夢のかたち <5>

 戦争について知識を深めようと思い、母から祖母の話を聞いた。すると、祖母は戦後に反戦・平和を短歌にして詠み、同人誌「火幻」や新聞のコラムに投稿していたと話してくれた。

 祖母が表現者だったのは初耳で驚いたが、同時に自分が表現者になったことに必然性を感じずにはいられなかった。祖母の短歌や手記には、「日常の小さな幸せ」をいとおしむ様子が描かれており、戦争はそれをすべて奪ってしまう悲惨で残酷なものだった、ということがじわじわと伝わってくる作風だった。

 祖母の戦争体験をこんな形で、しかも亡くなってから25年もたって知るとは思わなかったが、意味があってこのタイミングなのかもしれない、時を経て祖母からもらったメッセージなのかもしれない、とも思えた。そして2015年、祖母と私のつながりを軸にした「アサガオの雫」という朗読劇の原案を考えた。

 物語自体はフィクションだが、現代に生きる主人公(私)が、戦後に生きた伯母(祖母)からメッセージをもらうという設定はそのまま生かし、戦後の広島で祖母の短歌のように「日常の小さな幸せ」を願って生きた人たちや、それすらかなえられなかった人たちがいたことを描いた。はかなく悲しい物語を通して、今を生きる私たちにできることを問いかけた。

 16年に発表し、東京、広島で上演した。今思えば手探りで粗削りな部分もあったが、発表できたことが大きな一歩だった。私の心に植えられた「種」がようやく芽吹き、成長し始めたのを感じた。(舞台俳優=東京都)

(2019年8月31日朝刊掲載)

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緑地帯 中村香織 夢のかたち <2>

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緑地帯 中村香織 夢のかたち <8>

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