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連載・特集

平和の絆 広響ポーランド公演 共鳴した思い <上> 戦禍の2都市 つなぐ響き

 広島交響楽団のポーランド公演は8月17、18の両日、首都ワルシャワで喝采のうちに幕を閉じた。日本とポーランドの国交樹立100周年を記念し、現地の楽団と合同オーケストラを組んだ。広響が伝えようとした「Music for Peace(音楽で平和を)」は現地でどう響いたのか。同行取材から報告する。(西村文)

合同オケ「第9」 聴衆魅了

 「Alle Menschen werden Brüder (すべての人々は兄弟となる)…」

 迫力に満ちたドイツ語の合唱とオーケストラサウンドが鳴り響くと、バルコニー席にいた着飾ったカップルがぐっと身を乗り出した。秋山和慶広響終身名誉指揮者が最後のタクトを振り下ろす。「ブラボー!」。満席の聴衆1100人が次々に立ち上がり拍手を送った。

 戦後復興の歴史を白亜の建物に刻んだワルシャワ・フィルハーモニーホール。17日夜、広響の選抜メンバー21人が参加した合同オケが、「人類愛」を象徴するベートーベンの交響曲第9番を高らかに奏でた。

 「素晴らしい響きのホール。スタンディングオベーションは初めて」と感激していたのは、入団3年目のトランペット奏者金井晶子。広島市出身のクラリネット奏者品川秀世は「平和をテーマにした演奏は広響ならでは。喜びは大きい」。

 ワルシャワで2005年から毎年夏に開催されている「ショパンと彼のヨーロッパ」国際音楽祭(国立ショパン研究所主催)。今年は8月14日から19日間、世界各国の音楽家や楽団が36公演を繰り広げ、延べ約3万人の音楽ファンでにぎわった。合同オケはメインプログラムの一つとして登場した。

 開幕前日の記者会見では、ピオトル・グリンスキ副首相兼文化相らとともに、秋山と下野竜也音楽総監督が登壇。音楽祭のスタニスラフ・レシェツィンスキ芸術監督は「戦争の惨禍から復興を遂げたワルシャワと広島。合同オケは音楽文化にとって重要なプロジェクト」と、広響を「日本代表」として招いた理由を語った。

 広響メンバーは本番の4日前に合同オケを組む楽団「シンフォニア・バルソビア」と合流し、秋山、下野の指揮で連日リハーサルを重ねた。そして17日のタクトを担った秋山。人気ピアニストのマルタ・アルゲリッチを迎え、リストのピアノ協奏曲第1番、さらに「第9」で聴衆を熱狂させた。

 18日は下野が指揮し、ポーランドと日本の新旧名曲を並べた。冒頭はポーランドの国民的作曲家モニューシュコの「バイカ」は軽快な調べ。3曲目に入って場内の雰囲気が一変した。弦楽器が発する、天を切り裂くような音色―。ポーランドの現代作曲家、クシシュトフ・ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧(ささ)げる哀歌」が始まると、聴衆は身じろぎせずに聞き入った。

 「難解な現代音楽にもかかわらず、作品に込められた思いを感じようとする聴衆の熱意は想像以上だった」。広響第1コンサートマスターの佐久間聡一は舞台上での心境を明かす。

 レシェツィンスキ芸術監督は「音楽はグローバルなスケールで感情を表現し、人間同士をつなぐ力がある。合同オケはそれを成し遂げ、音楽を通じてメッセージを聴衆に伝えることができた」と評価した。(敬称略)

(2019年9月11日朝刊掲載)

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