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連載・特集

平和の絆 広響ポーランド公演 共鳴した思い <中> 音楽奏で地域貢献 同じ志

文化創出 新ホールに期待

 本番4日前の初リハーサルは、いきなり大迫力の演奏で始まった。広島交響楽団と現地のシンフォニア・バルソビアが組んだ合同オーケストラ。あいさつを交わした後、すぐに秋山和慶広響終身名誉指揮者のタクトでベートーベンの交響曲第9番に臨んだ。

 シンフォニア・バルソビアは、日本語でいえば「ワルシャワ交響楽(団)」。1984年、米国出身のバイオリニストで平和運動家でもあった故ユーディ・メニューインの呼び掛けで結成した。ポーランドが共産主義体制下の時代から頻繁に海外公演を行い、国際交流と平和の象徴として活動してきた。

 同じ志をもつ広響とは2016年から交流があった。バルソビアの楽団員が広島を訪れ、協演を重ねてきた。「今回は広島からポーランドに来てもらえてうれしい。気心の知れた友人と演奏するような気持ちだ」と、リハーサルに参加した第2バイオリン首席奏者のカミル・スタニチェク。日本で2度、広響と演奏を共にした体験は「深い感動となって心に刻まれている」と振り返る。

 ワルシャワ市は1944年、市民たちがナチス軍に立ち向かった「ワルシャワ蜂起」で約20万人ともいわれる死者を出し、都心部は壊滅した。原爆資料館(広島市中区)を訪れたというスタニチェクは「両市の楽団が平和を訴えて協演する。これ以上に意義深いことはない」と力を込める。

 両楽団は「地域に根差した楽団」を目指す姿勢も共通する。「最高級の演奏を提供することはもちろん、音楽に触れる機会に恵まれない人にもコンサートに来てもらいたい。社会のために何ができるかを常に考えている」。バルソビアの最高経営責任者(CEO)ヤヌシュ・マリノフスキは明言する。

 音楽大生と一緒にコンサートをつくる「アカデミー」のほか、3カ月の赤ちゃんのための演奏会、小学生を対象にした音楽教室、楽器演奏を趣味で楽しむ大人向け講座…。昨年、社会貢献として開いた教育プログラムは264にも上る。

 ワルシャワ市も音楽の「力」に期待を寄せ、財政的に支援している。2010年、市の東側に位置するプラガ地区の約3万平方メートルを、バルソビアのために購入。1860席の大ホールと三つの小ホールを備えた、国内最大の音楽施設が来年秋に着工予定だ。

 プラガ地区は第2次世界大戦中、ソ連軍の支配下にあったため破壊を免れた。戦前の古い建物が多く残っており、低所得層が多い地域という。ミハウ・オルシェフスキ副市長は「新ホールの建設とバルソビアの音楽活動が住民同士をつなげ、地域のアイデンティティーや創造性を生み出すことに期待する」と語る。

 音楽祭の鑑賞などを目的にワルシャワ市を訪れた広島市の松井一実市長は、オルシェフスキ副市長らの案内で新ホール建設の予定地を視察した。

 広響も11年に掲げたビジョンで「地域貢献」を強くうたい、小中高校などで生演奏に触れてもらう「鑑賞教室」などに力を注ぐ。中四国を代表するプロオーケストラとして音楽文化を支え続けて47年。広島市に拠点となるべき音楽専用ホールがないという長年の課題がある。広響がポーランドで得た経験を基に、「国際平和文化都市」にふさわしい環境が生まれることを期待したい。=敬称略(西村文)

(2019年9月12日朝刊掲載)

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