×

社説・コラム

社説 嘉手納爆音 二審判決 国の不作為 なぜ裁けぬ

 いつまで耐えねばならないのか。米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)の周辺に暮らす約2万2千人が、航空機の騒音被害を訴え、損害賠償などを国に求めた第3次嘉手納爆音訴訟控訴審で判決が言い渡された。

 福岡高裁那覇支部は、夜間・早朝の飛行差し止め請求を退けた。基地管理は米国に委ねており、日本政府は規制できない―という理屈である。政府には国民を守る権限がなく仕方がないと言うのに等しい。住民でなくとも受け入れられまい。

 一方、賠償面では約261億円余りの支払いを命じたものの一審の那覇地裁沖縄支部判決から減額した。その根拠も明確には述べられず、合理性を欠くと言わざるを得ない。

 住民の健康被害を認めながら国がその解消に無策でいるのを是認するつもりか。政府に対して是正を強く迫るのが、司法の務めであるはずだ。

 「社会生活上、受忍できる限度を超えている」。判決はそう指摘し、心理的負担をはじめ、睡眠妨害や高血圧などの健康被害を認めた。

 ところが「一切の事情を考慮し」と述べ、騒音レベルの指標「うるささ指数」に応じ、慰謝料を1人当たり月4500~2万2500円とした。慰謝料額の基準を一審判決から下げたのである。また将来分の賠償請求については、不適法だとして却下した。

 原告をはじめ有識者から「理解できない」と声が上がるのも無理はあるまい。

 判決は「米軍の活動による利益を国民全体が受ける一方で、一部に特別な犠牲が強いられており、不公平は見過ごせない」とも述べた。沖縄に基地が集中する現状を問題視し、変更の必要性を示したのは当然だろう。

 にもかかわらず、飛行差し止め請求に、「基地の管理は米国に委ねられており、日本政府が規制できる立場にない」という従来の判例に沿った判断を示した。米軍機には日本政府の指揮・命令権が及ばないとする「第三者行為論」である。

 判決があったのと同じ日、住民の一部が米国を相手取って、飛行差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決もあった。高裁那覇支部は訴えを棄却した。

 国を訴えれば第三者行為論で日本政府は規制できないとされ、米国を訴えれば棄却される―。一体、飛行差し止めの訴えは誰が受け止めるのか、住民の健康や財産を誰が守るのか。

 日米は、深夜から早朝の飛行自粛を取り決めた騒音防止協定を結んでいる。二審判決はこの協定にも言及し、「十分履行されているとは言い難い」「政府が米国に協定の履行を求める実効的な措置を取った事実を認める証拠はない」とした。

 協定に沿った飛行を米軍に求めるよう、政府に促すべきだ。守るかどうかは米軍次第として片付けてはならない。

 騒音を巡る訴訟は米軍岩国基地や横田、厚木などの基地でも争われている。また基地を抱える地域の住民は騒音のほかにも、さまざまな苦痛を強いられている。

 基地を米軍に提供しているのは国である。その当事者として政府には被害に対する賠償のみならず国民を守る義務がある。第三者行為論などを理由にした不作為は許されない。

(2019年9月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ