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社説・コラム

平和の絆 広響ポーランド公演 インタビュー編

 「Music for Peace(音楽で平和を)」を掲げた広島交響楽団とシンフォニア・バルソビアの合同オーケストラは、多彩なプログラムの2公演で、ワルシャワ市民を魅了した。指揮を担った秋山和慶終身名誉指揮者と下野竜也音楽総監督に、公演の意義や手応えを聞いた。(西村文)

合同オケ パワーあふれ

秋山和慶・終身名誉指揮者

  ―ベートーベンの交響曲第9番は大喝采でした。どんな心境でしたか。
 合同オケの演奏と合唱はパワーにあふれ、最後まで気持ちが入っていた。聴衆の拍手を浴び、本当にやって良かったと思った。450回ほど「第9」を振っているが、毎回、新しい発見がある。「人類愛」を歌い上げる歌詞も素晴らしい。戦争体験者として昨今の世界情勢に危惧を抱いている。今、最も求められているのは「第9」の精神だ。

  ―バルソビアとの協演はどうでしたか。
 非常にまじめに音楽に取り組む楽団。広島で一緒に演奏したメンバーもいて、「お久しぶり」という感じだった。国を越えて楽団が一緒に演奏する取り組みは、日本のオケではあまりないこと。「平和」をテーマに広響が成し遂げたことを喜びに思う。

  ―アルゲリッチと4年ぶりの協演を果たしました。
 広島での初対面は緊張感があったが、今回は「またご一緒できるわね」とアルゲリッチも最初から笑顔だった。(リストのピアノ協奏曲第1番で)トライアングル奏者をピアノのそばに座らせたのは彼女のアイデア。私は初めての配置だったが、両者のコンタクトがじかにとれて良い演奏になった。

  ―ワルシャワの印象は。
 1970年に桐朋学園オーケストラの欧州ツアーで訪れて以来。当時は共産主義政権下で地元の人と会話はできなかった。49年ぶりの街は明るかった。公演会場のフィルハーモニーホールは素晴らしい音響。広島から大勢が鑑賞ツアーで訪れてくれたのもうれしい。ぜひ「広島にも音楽専用ホールをつくろう」と、応援団になってもらいたい。

個性 積極的にアピール

下野竜也・音楽総監督

  ―ポーランドの名曲を地元ワルシャワで指揮した感想は。
 一番緊張したのは冒頭に演奏したモニューシュコの「バイカ」だった。生誕200年を迎えた国民的な作曲家。バルソビアのメンバーに「これで大丈夫?」と尋ねながらリハーサルを進めた。

 ショパンのピアノ協奏曲第2番は、ソリストがネルソン・フレイレから、ポーランドを代表するクシシュトフ・ヤブウォンスキに変更になった。普通はオケがピアノを引き立てるが、バルソビアとヤブウォンスキは「対話」をしていた。指揮をしていて非常に面白かった。

  ―現代曲も含む刺激的なプログラムでした。
 ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧(ささ)げる哀歌」は、聴衆が集中して聴いてくれているのを感じた。藤倉大の「オーケストラのためのUmi(海)」は演奏が非常に難しいが、バルソビアの楽団員たちは「良い曲だ」と真摯(しんし)に取り組んでくれた。

  ―広響からは21人の選抜メンバーが参加しました。
 リハーサルが進むにつれ、個々人が積極的にアピールするようになっていった。日本の「和をもって…」ではなく、個性を出し合って音楽をつくる楽しさを体感できたのではないか。

  ―来年は被爆75年のコンサートを広島で指揮します。アルゲリッチとの協演もあります。
 藤倉作曲の「明子のピアノ」をどのように弾いてくださるか楽しみ。広響が取り組んできた「平和」プロジェクトの一つの集大成なので、大切にしたい。

(2019年9月14日朝刊掲載)

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