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社説・コラム

社説 山陰沖に北朝鮮ミサイル 国際連携で暴走止めよ

 北朝鮮がまたしても弾道ミサイルを発射した。島根県の隠岐諸島沖約350キロ付近の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとみられる。

 一帯は大和堆(やまとたい)と呼ばれる好漁場で、ベニズワイガニなどの漁期が始まっている。危険極まりなく、被害を受ける恐れもあった。この海域で操業している日本の漁業者から怒りの声が上がるのも無理はない。

 安倍晋三首相は「国連安全保障理事会決議に違反する」と強く非難した。EEZ内への落下は2017年以来となる。島根県の丸山達也知事も「由々しき事態」と重く受け止め、政府に再発防止に最大限努めるよう求めた。

 北朝鮮と海を挟んだ日本海沿岸で暮らす住民の不安は小さくなかろう。日本の安全を直接脅かす暴挙に対し、政府は国際社会と連携して厳しい警告を発するべきだ。

 韓国軍は2日発射されたミサイルについて、中距離の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の改良型だと推定した。

 高度は900キロを超え、約450キロ飛んだ。通常より高い角度で打ち上げたとみられ、本来の軌道であれば飛距離はさらに延びる。日本全土も射程に捉える可能性が高い。

 SLBMだったとすれば、16年8月以来の発射となる。潜水艦からの発射は事前の兆候がつかみにくい。行動範囲が広がり奇襲能力も高まる。米国にとっても、安全保障上の大きな脅威になりかねない。深刻に受け止める必要がある。

 潜水艦やミサイルの開発状況とともに、北朝鮮の意図の分析も急ぎたい。

 北朝鮮は5日に米国との実務協議を再開すると発表したばかりだった。交渉を前に米国の反応を探るのが狙いなのだろうか。ミサイル開発を誇示して揺さぶりをかけるつもりなのか。

 5月からの弾道ミサイルの発射は今回で11回目となり、公然と国連決議違反を繰り返している。これに対し、トランプ米大統領は「短距離弾道ミサイルの発射は問題視しない」と語るなど、一貫して黙認してきた。

 こうした姿勢が北朝鮮に誤ったメッセージを伝え、ミサイル発射をエスカレートさせる結果を招いたのではないか。

 度重なる発射実験で、北朝鮮が各種ミサイルの能力を少しずつ高めている可能性も否定できない。安倍首相は、いかなるミサイルも一切容認しない立場を明確にするよう、トランプ氏に求めるべきだ。

 そのためには、韓国との連携が不可欠だ。ただ日韓両国政府の対立は依然、改善の糸口さえ見つからない状況だ。韓国側は日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を通告しており、来月にも失効する。

 ところが今回のミサイル発射を受け、韓国は協定に基づく情報提供を日本側に求め、日本も応じる。韓国は着弾までの状況を分析するには日本の情報が必要と判断した。

 情報共有の重要性が改めて認識されたのではないか。日本政府は破棄の撤回を働き掛ける努力を怠ってはならない。

 日米韓の足並みが乱れていては、北朝鮮の暴走を食い止めることはできない。危機意識を共有し、3カ国連携の再構築を急ぐ必要がある。

(2019年10月4日朝刊掲載)

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