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法王 被爆地へ <下> 核廃絶の訴え 禁止条約 後押しを期待 保有国・日本に問いを

 広島市出身の被爆者サーロー節子さん(87)=カナダ・トロント=は3月20日、京都市の非政府組織(NGO)の誘いでバチカンを訪れ、ローマ法王フランシスコの一般謁見(えっけん)に参列した。「体調がすぐれず、実は直前まで参加を迷っていた。でも、どうしても法王にお礼を伝えたかった」と振り返る。

 バチカンは核兵器禁止条約の推進姿勢で知られ、被爆者にとって大きな励みとなってきた。2017年7月、国連で条約の成立に賛成した122カ国・地域に加わった上、先頭を切って加盟手続きを済ませた。「核兵器の非人道性を、法王や聖職者たちは心から理解してくださっているのだと思う」

「ヒロシマ」贈る

 13歳の時に爆心地から1・8キロで被爆し、姉やおい、同級生を失った。16歳で受洗。結婚を機に住んだカナダから「声なき死者の無念」と「生き残った者の務め」を胸に反核を訴えてきた。17年、NGOの立場から核兵器禁止条約実現を訴えた核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))はノーベル平和賞を受賞。サーローさんが代表して授賞式で演説した。

 屋外であった謁見。サーローさんは被爆者、そしてキリスト教徒として、とっておきの贈り物を法王に手渡した。金糸で装丁されたジョン・ハーシー著「ヒロシマ」の英語版だ。

 米国のジャーナリストが被爆の翌年、いち早く広島の6人の証言をルポした名著。「そのうち1人はカトリックのクラインゾルゲ神父。そして、私をキリスト教に導いてくださった広島流川教会の谷本清牧師です」。壊滅した街で、自ら被爆しながら献身的に市民に尽くした2人の宗教者のことをぜひ知ってほしかった。

38年ぶりの発信

 そして最後に、どうしても伝えたかったことを切り出した。「日本は米国の『核の傘』に頼り、核兵器禁止条約に背を向けています。来日されるのであれば、政府に向けて強力なメッセージを発していただきたいのです」。法王は真っすぐに見つめ、無言のまま手を強く握ってくれた。伝わっただろうか―。

 法王は11月24日、今度は長崎、次いで広島で被爆者と触れ合う。政府に対する具体的な発言は、聞かれないかもしれない。それでも、ローマ法王として38年ぶりに被爆地から世界に発信される平和の訴えに期待を込める。核兵器に固執する世界の保有国と、あの122カ国・地域に加わることを拒んだ日本に重い問いを突き付ける、サーローさんはそう信じるからだ。(金崎由美)

(2019年10月26日朝刊掲載)

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