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四国五郎の詩 「鎮魂歌」を歌に 広島の声楽家今田さん14日披露

 戦争や原爆への怒りを、被爆地から絵や詩で表現し続けた四国五郎(1924~2014年)。被爆死した弟への思いをつづった詩「弟への鎮魂歌(抄)」にメロディーが付けられた。広島市中区の声楽家今田陽次さん(41)が、14日に東区民文化センターで開く独唱会で初披露する。

 「弟よ」で始まる詩は1970年、四国が詩画集「母子像」に発表した「弟への鎮魂歌」が基。翌71年に詩と絵画を一体にした平面作品「弟への鎮魂歌(抄)」として発表している。被爆による急性症状に苦しみながら20日余り後に亡くなった弟の死を悼む。

 今田さんはかねて「広島で歌う限りヒロシマを伝える歌い手になりたい」と考えてきたという。原爆に関する資料に当たる中で3年ほど前、四国が残した数々の作品と出合う。従軍やシベリア抑留、最愛の弟の被爆死を経て、平和のためにと被爆地で筆を握り続けた生涯に衝撃を受けた。

 とりわけ「弟への鎮魂歌(抄)」に心を打たれ「歌いたいと強く思った」と振り返る。遺族の承諾を得て西区の作曲家坪北紗綾香さん(37)に曲を依頼した。「大切な人を失った怒りや悲しみを思うと押しつぶされそうになるが、私の声を通して四国さんの思いや人生を少しでも多くの人に伝えたい」と今田さん。

 峠三吉「原爆詩集」の表紙絵や絵本「おこりじぞう」を手掛けたことでも知られる四国は生前、絵と詩を組み合わせて街頭に張り出す辻詩や朗読詩も数多く創作してきた。長男光さん(63)は「父は詩を文字だけの線として捉えず、絵と組み合わせて平面に拡大し、朗読することで空間的立体的に伝える方法に心を砕いた。曲にすることも父の表現理念にかなっていると思う」と語る。

 バリトン独唱会「日本を歌う」は午後2時と7時の2回公演。ピアノは山下雅靖さん。2500円(前売り2千円)。今田さん☎082(246)8984。(森田裕美)

(2019年11月12日朝刊掲載)

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