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社説・コラム

社説 イラン報復攻撃 国際協調で戦争避けよ

 米軍が駐留するイラク空軍基地を、イランが弾道ミサイルで攻撃した。イラン国営放送は「戦果」を強調し、国民を鼓舞しているものの、一般の報道によると戦死者はいない。

 きのうの段階では、米国とイランの全面衝突に発展する危機は遠のいたかのように見える。とはいえ、兵器級まで無制限にウラン濃縮を進めようとするイランの核開発や、米軍のイラク駐留など火種は尽きておらず、国際社会は協調して戦争の回避へ動かなければなるまい。

 専門家によると、今回のイランのミサイル攻撃は精度が高く、計算ずくだという。革命防衛隊のソレイマニ司令官が殺害されたことに対する報復と位置付け、反撃能力も誇示することで、米国の次の軍事行動をけん制する腹づもりだろう。

 しかし、イランが国連安全保障理事会などに対し、国連憲章51条で定められた正当な自衛権の行使だと主張したことは看過できない。安保理の「必要な措置」を待たないで、自衛権の名の下に武力を行使することは極めて危うい。「自衛権の応酬」にもつながりかねない。

 米国とイランの関係が緊迫すれば対立の舞台であるイラク国内も不安定になる。「シーア派の三日月」と呼ばれる親イラン勢力のネットワークが刺激され、米国とともにイスラエルを標的にすることも危惧される。壊滅に向かう過激派組織「イスラム国」(IS)が息を吹き返す契機になるなど、懸念は尽きない。

 だがイランにもまして戦争を回避する責任を負うのは、米国のトランプ大統領である。ソレイマニ氏を「テロリストの頭目」とみなして殺害していながら「戦争を求めていない。イランの体制転換も求めない」と述べるのは矛盾していよう。

 米国内ではベトナム戦争以来の「大義なき戦争」の泥沼化に国民の厭戦(えんせん)ムードが根強い。トランプ氏も大統領選では中東の駐留米軍の撤退を公約したはずだ。軍事作戦にゴーサインを出しながら、戦争は避けたい―と言っても通用しない。国内の「弱腰批判」を気にするよりも国際社会の信頼を得られるような決断を強く求めたい。

 日本は仲介役として、戦争の回避と緊張緩和へ、外交努力を続けなければなるまい。安倍晋三首相は11日からの中東3カ国歴訪を一時見合わせるとみられていたが、予定通り赴くことにしたのは当然だろう。

 その一方で、きょう河野太郎防衛相が命令を出す海上自衛隊の護衛艦と哨戒機の中東派遣は再考すべきではないか。

 河野防衛相はきのう、不測の事態に武器使用が可能になる「海上警備行動」の図上演習を視察した。だが派遣の根拠は防衛省設置法の「調査・研究」であり、戦争状態になる恐れも否定できない中で海上警備行動を想定することに、不安を覚えずにはいられない。日本船舶の安全確保については、海自の派遣にこだわらず、あらためて対策を検討する必要がある。

 欧州連合(EU)は「イラン核合意の堅持」を前提に、双方の仲介役を申し出た。中国とロシアも事態のエスカレートに懸念を示している。国連安保理は拒否権を持つ常任理事国の足並みの乱れで役割を十分果たせていないが、ここも突破口を探るべきである。

(2020年1月10日朝刊掲載)

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