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社説・コラム

『潮流』 時計の針

■ヒロシマ平和メディアセンター長 吉原圭介

 久しぶりにロバート・デ・ニーロ主演の映画「ミッドナイト・ラン」を見た。1988年公開で、最初に見たのは学生の頃。ギャングの金を横領して慈善事業に寄付した会計士を、元刑事で賞金稼ぎのデ・ニーロが追い、連行する珍道中を描いたコメディーだ。

 この中で腕時計がいい味を出している。随所で耳に当て、動いているかを確認するデ・ニーロ。そして終盤にさしかかろうというときに、この時計にまつわるエピソードを明かす。別れた妻が、結婚前にプレゼントしてくれたんだと。

 「おれがいつもデートに30分遅れるから、針を30分進めて贈ってくれたんだ」。元妻への未練を告白し、これを機に会計士との距離が一気に近づく。

 ネット配信でこの映画を見たちょうどその頃、地球最後の日までの残り時間を概念的に示す「終末時計」が、過去最短の「100秒」になったことが報じられた。米国の科学者たちが世界情勢などを鑑み、毎年発表している。昨年は「2分」。米中枢同時テロの後でも「7分」だった。

 今回は単位が「分」から「秒」に変わったことで、まさに最終章へのカウントダウンが始まるという切迫感が増した。

 時計といえば、その進化には目を見張る。電波などを利用して正確さを誇るものも充実した。最近愛用しているスマートウオッチには、歩数や血圧を測ったり、睡眠時間を記録したりする機能もある。

 一方で、ねじを巻くのを忘れると、すぐに止まってしまう自動巻き時計に愛着があるのも確かだ。アナログの時計だからこそ、前述の映画で魅力を発揮したとも言える。

 過ぎ去った時間はもう戻らない。しかし、時計の針は戻すことができる。もっとも「分」は簡単だが、秒針となると一筋縄ではいかない。

(2020年2月13日朝刊掲載)

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